
Ⅰ.はじめに
芥川龍之介(1892〜1927)著『蜘蛛の糸』はご存じだろうか? 本書は、地獄に落ちた男が、やっとのことでつかんだ「蜘蛛の糸」に対して、自分だけが助かろうとする、エゴイズムによって、「蜘蛛の糸」が切れてしまう、という内容。この作品にふれたのは、高校の時であった。今、私は、
俺が、俺が、と「我」を張り続けると、お天道様からの「蜘蛛の糸」が断ち切られないか心配する。だから、「良い」と思ったことは、常にまわりをまきこみ、そして、「良い」とおもった情報は、常に、みんなに拡散するように心がけている。
II.熊本にきて出会った宮本武蔵『五輪の書』と座禅
私が、難儀苦労の末、東海大学熊本キャンパス(採用当時は九州東海大学)へ人事がきまった時は飛び上がって喜んだ。熊本への引っ越しで、まず、熊本のイメージとして頭に浮かんだのが、宮本武蔵であった。武蔵は、雲巌禅寺に通い、霊巌洞にて『五輪の書』を書き上げた。何のご縁か、私が、さらに、湘南キャンパスへと、人事異動が内示されたころ、熊本県菊池市の玉祥寺にご縁ができた。和尚様に聞くと、そこは、宮本武蔵が通った雲巌禅寺と同じ宗派であるという。期間はよく覚えていないが、和尚様との相性もあってか、2か月から3か月は、玉祥寺(菊池市)で寝泊りしていたとおもう。その時に、朝の座禅を覚えた。座禅は頭と心をすっきりさせる。さらに『五輪の書』を読み返し、次のような解釈をした。
第1巻 地の巻。まず、足元を固めること。足元を掘り下げることは、ニーチェも同じことをいっている。汝自身の足元に宝あり、と。私の場合は、沖縄、そして、勤務地、熊本と神奈川、その他の東海大学に所属する多くのキャンパス、となる。
第2巻 水の巻。地域に入り込むときは、水のように、頭を低く、環境になじむ。
第3巻 火の巻。みんなと仲良くなったら、炎のように、みんなを巻き込んで、上昇気流をつくる。
第4巻 風の巻。 目標達成とは、木々が生い茂り(環境が整い)、さわやかな気持ちでいられること。第5巻 空の巻。陰陽五行説では「金」の巻、となる。しかし、「色即是空、空即是色」の考え方では、「空」とは自分が関係性のなかで存在していることを悟ること、となる。そんなことを学者として氣づいた私は、感謝の気持ちを込めて、玉祥寺と興福寺に、お布施を行った。そしたら、菊池に戻ってびっくりした。お布施の気持ちは、石碑と観音様になっていた(図2と図3)

図3興福寺に建立された観音様

図2玉祥寺に建立された石碑
III.縁尋機妙多逢聖因(えんじんきみょう たほうしょういん)
現在、社会教育として、月1回程度のセミナーを行っている。セミナー受講生からは、メンタル的な内容のカリキュラムが求められる。私の場合、スポーツメンタルトレーニングは、経験があり実績もある。しかし、マインドフルネスなどの手法は文献で読んだ程度の知識しかない。そんなとき、妹分の研究者仲間から、マインドフルネスの有資格者を紹介頂いた。感謝である。まさしく、「縁尋機妙(えんじんきみょう)多逢聖因(たほうしょういん)」である。私は、良いご縁を頂いたときは、常に、芥川龍之介『蜘蛛の糸』を思い出す。
儀間 敏彦(ぎま としひこ)
東海大学 教授 湘南キャンパス教育開発研究センター所属 那覇市出身
図2 ぎまとしひこのホームページ
(https://richardgima.com/)
