沖縄県石垣島。この島には日本のアリ好きなら誰しもが知っている伝説のアリがいます。その名もオモトアシナガアリ Aphaenogaster omotoensis 。本種はアシナガアリ属というグループに属しており、名前の通り脚が長くスマートな体系をしています。国内では北海道から沖縄まで広く分布するアシナガアリ属ですが、オモトアシナガアリは石垣島にそびえ立つ沖縄県の最高峰、於茂登岳(おもとだけ)の山頂付近にのみ生息するという超局所分布のアリなのです。文献やネット上にもほとんど写真が無い本種ですが、2022年に国内のバラエティー番組でタレントさんが動画の撮影に成功し、一時その名が知れ渡りました。もちろん、私もその番組を見ていたので「本当に存在したのか!探しに行かねば」と燃えましたが、なかなか機会が得られずだんだんと忘れていきました。

オモトアシナガアリ。体長は4-5mm前後

しかし、今年の春に石垣島に行く機会があり「今探さねば次はいつになるか分からない」と奮い立ち、アリを求めて於茂登岳に登りました。
登山の道中でも生き物を観察しつつ登ること2時間、ついに頂上に到着。すぐに地面に這いつくばってアリを探しました。しかし、ここで一つ厄介な問題がありました。それは、石垣島にはオモトの他に、タカサゴアシナガアリ、クビナガアシナガアリという2種類のアシナガアリが生息しており、外見が非常に似ていて肉眼で見分けるのは困難なのです。加えて於茂登岳は保護区に指定されており、採集して後で調べることもできません。そこで私は片っ端から写真を取り、写真を拡大して、ネットで図鑑を開いてその場で同定を行いました。「これも違う…これも違う…」とぶつぶつ言いながら写真を見ていったところ、図鑑に載っている特徴と完璧に一致するアリの写真が数枚収められていました。ついに伝説のアリ、オモトアシナガアリの撮影に成功したのです。春先のまだ少し肌寒く、風の吹きすさぶ於茂登岳の山頂で、力いっぱい叫びました。

脚をすくめて地面に伏せる本種。
頭部や前胸に多くのシワを持ち、光沢が弱いのが特徴

こちらはクビナガアシナガアリ。オモトに比べて頭や体が長め

仲間 信道なかま のぶゆき
沖縄生まれ沖縄育ち。好きな生き物は多足類(ムカデ、ヤスデ、ゲジなど)、昆虫、爬虫類など広く。専門はタマヤスデの分類。多趣味で、バイクいじり、古物収集、レコード鑑賞などが好き。琉球大学大学院農学研究科修了。修士(農学)

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