
進歩は常識の“外”にある オーガニックファテライザー 三輪晋(宮崎県都農市出身)
農業の世界では、常識を超えた発想が革新をもたらすことがあります。今回の「儀間研究室から見た教育論」では、番外編として儀間先生と親交の深い宮崎県都農(つの)市を拠点に長年全国で農業指導を続けるオーガニックファテライザーの三輪晋さんを紹介します。ファテライザー(fertilizer)とは直訳すると肥料。広義には「豊かにする人や物」という意味があります。世界最大規模のワインコンクールで高い評価を得た都農ワインの土作りを指導した三輪さんの歩んできた歴史とマインドは、ジュクタン読者の学びのヒントになるはずです。
経済学部卒業後 実家の肥料を売るために農業を学ぶ
実家は宮崎県都農市。大学の経済学部を卒業した後、肥料を販売する家業を継ぐために地元に戻った三輪さん。しかし「農業のことを何も知らずに肥料は売れない」と宮崎県の農業試験場に1年間研修生として入り、農業の基本を学びました。更に農業で一番重要な土壌作りの原理原則を知るために中学・高校レベルの理科から勉強し直し、今も日々学びと研究を重ねています。そこから得たものを農業仲間と共有するため勉強会を開くようになったのが約40年前。地元宮崎だけでなく、広島、沖縄などからも声がかかり活動の場を広げて64歳の現在も農業指導のため日々全国をエネルギッシュに飛び回っています。中でも沖縄は繋がりが深く、現在は「OFRA(沖縄農業研究会)」のメンバーとして3〜4ヶ月に1回沖縄を訪れ、指導を続けています。
沖縄との繋がり
沖縄との繋がりが出来たのは、JA石川(統合前)時代。儀間先生の同級生の農業指導員が研修のために宮崎に来たことがきっかけで、研修の講師を依頼をされましたが、当時のJAの研修旅行というものは半分観光旅行だったため、三輪さんが本気で取り組んだ研修にも関わらずメモも取らず聞く態度も悪かった。その事を儀間先生に伝えると「もう一度お願いしたい」と半年も経たずに彼らは再訪。しかし、研修会で伝えたことは実践されず、3回目の依頼が来た際に「既成概念にとらわれて新しい事を実践しない人はいらない」告げると、婦人部の3人が研修会に参加。彼女らは沖縄に帰ったあとに即実践し、成果が倍になりました。そこから信頼関係が生まれ、平成11年から5年間、JA沖縄と正式に契約をしてアドバイザーに就任したのでした。
常識の外にある常識
農業の世界では、新しい方法が成果を上げても、既存の指導方法を守ろうという抵抗があります。例えば、沖縄での成功事例をまとめて農業改良普及センターで発表したところ、そのやり方が却下されたことがありました。彼らは新しい方法が従来の指導の価値を否定しているように感じたのです。しかしこれまでのやり方で現状問題が解決できないなら、違うやり方を柔軟に取り入れなければいけない。「常識の外にある常識」を理解し、原理原則を重んじながらもブレークスルーしなければ成長は出来ないのです。これが男性はなかなか受け入れることが出来ない。3度目の研修会に参加した女性たちは、既存の手法にとらわれず新しい発想を柔軟に取り入れたので成果をあげられたのでした。
土ごと発酵 人ごと発酵
沖縄で農耕地にするような土地には山がない、川もない。だから沖縄の土壌には堆肥が足りていない。だから収穫量が伸びない。通常10センチの「良質な土」を作るのに自然界では約100年かかります。でも三輪さんのやり方なら3日で出来るとのこと。自然界では山の中の土は表面だけが柔らかく、その下はガチガチです。しかし大きな木が生えて栄養を吸収しています。現代の農業では機械化によって深く耕すようになりましたが、それは自然の摂理に反しています。三輪さんは「発酵」という手法を取り入れ、10センチの土を3日で作る「土ごと発酵」という方法を提唱しています。土作りは有機物を微生物の餌にして、アミノ酸などの副産物を生み出すプロセスです。つまり化学なのです。学びが土を変える。原理原則を知り、新しい手法を取り入れることで土も人も変わる。三輪さんはそれを「土ごと発酵・人ごと発酵」と呼んでいます。
原理原則を知る
農業をするには、その技法だけでなく一見関係ないと思えるような物事でも原理原則を知ることがとても大切です。例えば今年(2025年)は日差しが強すぎて作物が健全に育たず、全国で不作が問題になっていますが、それが太陽黒点が極大期を迎えたことと関係している事は知っていますでしょうか。太陽黒点の活動とそれが自然界に与える影響について、天文学者は当たり前に知ってます。しかし農業分野までは降りてきていないと三輪さんは言います。畑と作物だけを見ていたら、この繋がりは分からないもの。黒点数の増減には周期があり、イギリスのテムズ川が凍ったり、ヨーロッパを中心に全世界でペスト(黒死病)が流行ったり、日本で大飢饉が発生した時期と黒点数が減少した時期はほぼ一致しています。パンデミックが起きた2020年も黒点が減少し、太陽活動が弱かった時期です。黒点が極めて少ないと、光が弱く太陽風もあまりない。ということは紫外線も弱く地球上の様々な菌が殺菌されない。そのため伝染病が蔓延するのです。黒点の周期を学び、黒点数の多くなる今年、畑の遮光に取り組んだ農家は、例年よりもマイナスではあっても利益を出しています。原理原則を知ることの大切さは利益としてしっかりと結果に現れているのです。
三輪さんから若い世代に伝えたいこと
「『成功した』『完成した』と思っている人はそれ以上成長しません。人は永遠に未完成なものだと思って、死ぬまで勉強を続けてください。そうすれば死ぬまで成長することが出来ます。また、作柄は人柄。農家だったら農作物、ジュクタンだったらこの冊子。出来上がったものは、作った人の人柄が現れるもの。良いものを作りたいと思ったら、まずは自分自身を磨くことが大切です。そのためには好奇心を持って、失敗を恐れず色々なことに取り組むこと。私が胸を張って誰にも負けないと言えること、それは失敗の数です。誰でも失敗は怖いものですが、失敗はイコール経験。自分を成長させる糧になります。」と三輪さんは語ります。


オーガニックファテライザー
三輪 晋 Miwa Susumu
宮崎県都農市を拠点に全国で農業指導をおこなうオーガニックファテライザー。「常識の外にある常識」「永遠に未完成」「作柄は人柄」という三つの理念を掲げ、農業の革新に取り組んでいる。