~北海道のリーディングスクール 札幌日本大学中学校・高等学校のグローバル教育と
国際バカロレア教育の取り組み~

急速な少子化による受験人口の大幅減少に加え、通信制高校の生徒数が伸びています。学校が限られた数の受験生を奪い合う構図が顕著になりつつあります。地方では学校存続の危機が迫っています。生き残れる学校と淘汰される学校の分岐点はどこにあるのか。今回は、30年にわたり、昭和薬科大学附属高等学校・中学校、大妻中学高等学校、Z会映像コース等で大学受験指導に携わり、東京学芸大学大学院教育学研究科(教職大学院)で学校経営、学校組織マネジメント、「学習する組織」を研究し、2025年度から北海道の札幌日本大学中学校・高等学校及び東京都の明星中学校・高等学校で学校経営、学校改革、先端教育をリードする森弘達先生が学校経営の視点から生き残る学校の条件と学校選びについて読み解きます。

激動する国際社会と学校教育に突きつけられる問い

国際社会の流動化は、学校教育に対して二つの根本的な問いを投げかけています。第一に、「何を学ぶべきか(カリキュラム)」であり、第二に「どのように学ぶべきか(学びの方式)」です。知識の量的習得だけでなく、批判的思考、問題発見力、エビデンスに基づく議論、協働スキル、そして言語を超えたコミュニケーション力(特に英語の運用力)が重要性を増しています。こうした資質は、一朝一夕に身につくものではなく、体系的な学習設計と継続的な学習機会によって育まれます。
また、海外大学や企業も、多様な背景を持つ人材の「適応力」「批判的思考」「グローバルコミュニケーション能力」を高く評価しており、学校教育における学びの目的の再定義が求められます。

国際社会の中で求められる知識・技能と英語の水準

国際社会で活躍するには、専門知識とともに次の三領域が不可欠です。第一は「探究的思考とメタ認知」(自ら問いを立て、方法を設計し、結果を振り返る力)。第二は「協働と合意形成能力」(異なる立場と利害を調整し、実行へとつなげる力)。第三は「言語運用能力」、なかでも英語を用いた論理的表現力と異文化理解の能力です。英語力は単なる語彙や文法の習得に留まらず、レポート作成、ディスカッション、公開発表、大学入試や資格試験(TOEFL/IELTS等)での実践的運用を通じて磨かれる必要があります。また、国際的な進路を希望する生徒には、早期からの英語による学術的読み書き(Academic
English)の習熟が求められます。さらに、国際バカロレア(IB)の教育理念においても、探究心・批判的思考・コミュニケーション能力の育成を強調しており、これらはグローバル教養のコアです。

私立中高一貫校のグローバル教育の強みと課題、そして、柔軟性をどう活かすか

私立中高一貫校は、教育プログラムの設計や教員配置、国際交流の提携先選定などで柔軟性を持つ一方、少子化・経営の制約、保護者の期待と現場の負担といった現実的制約とも向き合わねばなりません。ここで重要なのは、単発の国際プログラムではなく、学校全体の教育哲学と整合的に位置づけられた「通年・縦断的なグローバル教育の設計」です。特に中高一貫校は、6年間(あるいは連続した学年)を通して、探究・英語・体験学習を積み上げられるため、国際バカロレアや複合的なグローバルカリキュラムと親和性が高いです。

国際バカロレア教育の拡大

国際バカロレアは、国際バカロレア機構が提供する国際的な教育プログラムであり、世界で160の国や地域で導入されており、学校数は約5,800校となっています。日本では、2025年現在、国際バカロレア認定校・候補校は268校であり、そのうち学校教育法第1条に規定されている学校である一条校は83校です。日本政府は2021年6月に「成長戦略2021」を閣議決定し、国内における国際バカロレア認定校を200校以上という目標に掲げ、文部科学省国際バカロレア教育推進コンソーシアムが国際バカロレア導入のサポートを行ってきました。

国際バカロレア教育の使命

国際バカロレア教育は、非営利教育財団である国際バカロレア機構が提供する全世界共通の教育プログラムであります。国際バカロレアの使命は、「多様な文化の理解と尊重の精神を通じて、より良い、より平和な世界を築くことに貢献する、探究心、知識、思いやりに富んだ若者の育成を目的とします。この目的のため、国際バカロレアは、学校や政府、国際機関と協力しながら、チャレンジに満ちた国際教育プログラムと厳格な評価の仕組みの開発に取り組んでいます。国際バカロレアのプログラムは、世界各地で学ぶ児童生徒に、人が持つ違いを違いとして理解し、自分と異なる考えの人々にもそれぞれの正しさがあり得ると認めることのできる人として、積極的に、そして共感する心を持って生涯にわたって学び続けるよう働きかけていきます」(文部科学省IB教育推進コンソーシアム)と示されています。

国際バカロレアプログラムの種類

国際バカロレア教育では、3歳児から高校3年次まで4つのプログラムを用意しています。日本の幼稚園から小学校までに相当する学齢を対象とする初等教育プログラム(PYP)、日本の中学校と高校1年生までに相当する学齢を対象とする中等教育プログラム(MYP)、日本の高校2年と高校3年に相当とする学齢を対象とするプログラム(DP)、DPと対象とする学齢は同じであるが、職業を中心とするプログラムであるキャリア関連プログラム(CP)が、それぞれ独立したプログラムとなっています。
①PYP(Primary Years Programme)
幼稚園から小学校までの年齢を対象とするプログラムであり、PYPでは「小学校段階の児童にとって特に重要なのは、文脈の中でスキルを身につけること、児童自身に関連する内容かつ従来の教科の境界線を越えるテーマを探究すること」(国際バカロレア機構)とされています。PYPのプログラムでは国際教育の文脈において重要とされています人間の共通性に基づいた6つの「探究プログラム」、すなわち「私たちは誰なのか」「私たちはどのような場所と時代にいるのか」「私たちはどのように自分を表現するのか」「世界はどのような仕組みになっているのか」「私たちは自分たちをどう組織しているのか」「この地球を共有すること」です。
②MYP(Middle Years Programme)
中学校と高校1年生までの年齢を対象とするプログラムであり、MYPのカリキュラムは、PYPで身につけた知識・概念・スキルをさらに高度なものへと発展させていくことを目的としています。そのためMYPでは、「言語の習得」「言語と文化」「個人と社会」「数学」「デザイン」「芸術」「理科」「保健体育」が必須教科となっています。また、全教科の学びに加え、「学習の方法」「奉仕活動」「パーソナルプロジェクト」などのDPのコアカリキュラムにつながる学習活動に学校全体で取り組まなければなりません。さらにMYPでは、探究の文脈である「グローバルな文脈」に取り組むことが重要となります。
③DP(Diploma Programme)
高校2年生と3年生の年齢を対象とするプログラムであり、これまでに獲得した概念や学習スキルを活用することで、汎用的な資質・能力の成熟を目指します。高等教育機関(大学)での学習の準備的な位置づけとなりますが、単なる受験を目的とした学びではありません。DPのプログラムでは、「言語と文学(母語)」「言語習得(外国語)」「個人と社会(歴史、経済、哲学等)」「実験科学(生物、化学、物理等)」「数学とコンピュータ科学」「芸術(美術、音楽、ダンス、演劇等)」の6つの学問分野を学習します。また、DPのプログラムにしかない「Extended Essay(課題論文)」「TOK(知の理論)」「CAS(創造性、活動、奉仕)」の3つのコア科目によって、大学の求めるアカデミックな資質、能力、態度を高校段階から育成します。
④CP(Career–related Programme)
高校2年生と3年生の年齢を対象とするプログラムであり、キャリア関連の総合学習プログラムです。教室での学びだけではなく、実地体験や職業体験もあります。

国際バカロレアの学習者像

「国際バカロレアの学習者像」は、「国際バカロレアの使命」を具体化したもので、「国際的な視野をもつとはどういうことか」という問いに対する国際バカロレアの答えの中核を担っています。以下の10の学習者像があります。国際バカロレアの学習者像は、日本の学習指導要領の考え方とも共通しているところが多く、日本の学校教育において大いに参考になります。

①探究する人 ②知識のある人 ③考える人 ④コミュニケーションができる人 ⑤信念をもつ人 ⑥心を開く人 ⑦思いやりのある人 ⑧挑戦する人 ⑨バランスのとれた人 ⑩振り返りができる人

札幌日本大学中学校・高等学校のグローバル教育

札幌日本大学中学校・高等学校は、「世界に貢献できる人材の育成」という教育方針のもと、グローバル教育を多面的に展開しています。まず、文部科学省のスーパーサイエンスハイスクール(SSH)を実施し、また、文部科学省のスーパーグローバルハイスクールの認定のもと、スーパーグローバルリベラルアーツプログラム(SGL)やメディカルリーダー育成プログラム(MLP)も実施しています。SGLでは「北海道の産業課題を世界視点で捉え、解決に導くグローバル人材の育成」をテーマに据えています。ここでは、英語コミュニケーション能力を伸ばすこと、国際理解教育、海外研修・国際交流を重視しています。また、高等学校では国際バカロレア(IB)ディプロマプログラムを導入しています。英語と日本語によるデュアルランゲージ方式を取り入れ、海外大学進学も見据えた教育体制を整えています。さらに、数多くのグローバル教育を提供しています。

札幌日本大学中学校・高等学校の主なグローバル教育プログラム
・国際バカロレア(IB)コース
・グローバルクリエイト(GC)コース
・ケンブリッジ大学研修プログラム
・オーストラリア姉妹校交流
・留学支援(短期・長期)
・海外ボランティア研修
・留学生受け入れ活動 ・模擬国連

札幌日本大学高等学校の国際バカロレア教育(IBコース)

日本のIBDP認定校では、国際的な教育環境を整備し、生徒の多様な学びを支援しています。また、地域社会との連携を通じて、実践的な学びの場を提供しています。札幌日本大学高等学校は2022年に北海道の私立高校として初めてIBワールドスクールの認定を受けました。国際バカロレアコースでは、IB機構から提供される世界共通のカリキュラムを履修します。札幌日本大学高等学校で行われるのは日本語DP(デュアルランゲージDP)と呼ばれるもので、2~3科目を履修します。札幌日本大学高等学校は、すべての開講科目で2つのレベル(SL・HL)のクラスがあります。開講科目は以下の通りです。

・Japanese A(日本語)
・English B(英語)
・History(日本語)  ・ESS(英語)
・Biology Chemistry Physics(日本語)
・Math(AA)(日本語&英語)
・Visual Arts(英語)
※HL…ハイヤーレベル SL…スタンダードレベル

札幌日本大学中学校のグローバル・クリエイトコース

札幌日本大学中学校のグローバルクリエイトコース(GCコース)は、探究型学習を軸に「新しいモノ・新しい価値観を生み出すクリエイティブリーダー」を育てることを目標とした中高一貫のコースで2025年度にスタートしました。現代社会で重要となるテーマ(ドローン、小説・映画制作、スポーツ科学、金融・資産運用など)に沿ったテーマ別探究の「未来創造実践編」と個々の関心に応じた課題研究を進め、思考力・判断力・表現力・協働力を養成します。授業構成は探究理論である「未来創造理論編」(他者理解→自己理解→社会形成)とGCコース独自の探究実践である「未来創造実践編」(4期に分けたテーマ探究)で構成され、中学3年次には4,000字の課題研究論文を作成、GCコースでは英語でのプレゼンテーションも行います。また、多読・国際交流・海外研修など英語運用の機会を多く設け、大学入試において、総合型選抜・学校推薦型選抜や海外大学進学を意識した進路指導を行う点が特色です。

《参考》 グローバル教育や国際バカロレアに関する参考文献・推薦図書
●東京学芸大学国際バカロレア教育研究会『国際バカロレアと教員養成』(学文社)
●Z会編集部『TOK(知の理論)を解読する~教科を超えた知識の探究』(Z会)
●後藤健夫『セオリー・オブ・ナレッジ~世界が認めた「知の理論」~』(ピアソン・ジャパン)
●アンドレアス・シュライヒャー『教育のワールドクラス~21世紀の学校システムをつくる~』(明石書店)
●大前研一『ゲームチェンジ』(プレジデント社)
●大前研一『AI時代を勝ち抜く学び~これからの社会に必要な視点とは何か~』(ビジネス・ブレークスルー出版)
●大前研一『変革~コロナ渦で加速する学びの潮流~』(ビジネス・ブレークスルー出版)
●白川寧々・鈴木款『わが子に今日からできる!世界標準の英語の学び方』(学陽書房)
●東京学芸大学附属国際中等教育学校『DP生徒用ガイド』(非売品)