
海洋研究開発機構(JAMSTEC)という国の研究機関の研究者で、数学カフェにも携わっている中島悠です。
JAMSTECは、名護に国際海洋環境情報センター(GODAC)という拠点もあります。私は、主に海の「微生物生態学」を専門とし、自然界にはどんな面白い生物がいて、どんな能力を持つのかを研究しています。最近でこそ、研究で数学も使いますが、数学の履修は、学部1年生で受けた一般教養までで、決して数学の専門家ではありません。ではなぜそんな人が数学の普及活動を行う組織にいるのか? その答えはシンプルで、「数学も好き」で「みんなと共有したい」からです。私の科学への興味は小学校から高校卒業までの間、化石・鉱物→微生物→数学→微生物と移ってきました。ありがちですが「無限」や「高次元」、「超越数」といったカッコイイ用語に惹かれたのが興味を持ったきっかけです。しかし、小中学校では周りにそういう話ができる友人や先生はあまりいませんでした。そんな私の興味を満たしてくれたのは「読書」と「受験」です。私が小中学生だった20年以上前は、インターネットが今ほど手軽ではなく、YouTubeも生成AIもありません。知識欲を満たすため、私は一般向けの自然科学系の本を(数学や微生物に偏りつつも)どんどんと読み進めました。するとたまたま読んだ本のたった数ページの出会いが、私の興味やその後の進路を大きく変えたのです。「受験」においては、塾の先生が教科書外の知識も教えてくれたことが私の興味を加速させました。「関数や座標は色々あってね」と、極座標(r,θ)や螺旋を描く関数を教えてくれ、中学生ながらに興奮しました。受験を突破し、進学した学校では、「そういう話ができる友人」にも恵まれました。
進路として農学部を選びました。農学部では応用方面、特に水産業に関連する微生物学を学んだので、中学の頃に惹かれていた極限環境の微生物とは少し縁遠かったです。しかし、私の博士論文や最近の研究、つまりここ10年弱で、それらが巡り巡って研究対象にもなりました。また、ここ1〜2年で数理科学系の人と一緒にしている研究でも、間接的ですが昔読んだ相対論やトポロジー(数学の分野の1つ)、高次元に関連する知識がほんのり役立っています。読書の選り好みをしなかったからこそ得た、有機的な繋がりだと思います。勉強や部活、趣味の中で皆さんは、様々な目標を持ち、それに向けて努力するでしょう。人生はゲームのように「経験値」という形で数字を得て、レベルが上がる様子が目に見える訳ではありません。努力は報われると言うものの、「あんなに頑張ったのに」となかなか結果が出ない経験をする人もいるかもしれません。しかし、サン=テグジュペリの『星の王子さま』で王子さまは言いました「大切なものは目に見えないんだよ」と。私の研究対象である微生物も目に見えませんが、生態系の土台として地球環境を支えています。努力や経験、あるいは知識や友情も、目には見えませんが、見えないからこそ大切であり、きっと皆さんの人生を陰で支えてくれるはずです。
NPO法人 数学カフェ
境界なき数学コミュニティ Math Community without Boundary
所属組織、居住地、性自認、性指向、体調、国籍など様々な境界を取り払って誰でも
数学を楽しめる場所を作っています.
