
~札幌日本大学高等学校のSSH、SGH、IBDPから探究教育を考える~
21 世紀の教育は、急速に変化する社会に対応するため、従来の知識詰め込み型から、思考力・判断力・表現力を育成する方向へとシフトしています。日本の高等学校教育も例外ではなく、文部科学省は多様な教育改革を推進しています。その中でも注目されるのが、探究、SSH (スーパーサイエンスハイスクール)、SGH(スーパーグローバルハイスクール)、そしてIBDP(国際バカロレアディプロマプログラム)です。今回は、30 年にわたり、昭和薬科大学附属高等学校・中学校、武蔵野大学附属千代田高等学院、大妻中学高等学校、Z 会映像コース等で大学受験指導や探究教育、学校改革に携わり、東京学芸大学大学院教育学研究科(教職大学院) で学校経営、学校組織マネジメント、「学習する組織」、国際バカロレア等を研究し、2025 年度から札幌日本大学中学校・高等学校副校長及び明星中学校・高等学校特別顧問として、学校経営や学校改革、先端教育をリードする森弘達先生がSSH、SGH、IBDP から探究教育について読み解きます。
SSH (スーパーサイエンスハ
イスクール)とは何か
SSHは、文部科学省が2002年度から開始した事業で、先進的な理数系教育を通じて、将来の科学技術人材を育成することを目的としています。指定された高等学校は、大学や研究機関と連携し、課題研究や探究的な学習活動を実施しています。
SSH指定校の実践例(札幌
日本大学高等学校)
科学の力で世界を幸せにする「新たな価値」を創造|課題研究や科学イベントを通して、さまざまな広がりを生み出します。
札幌日本大学高等学校では、S S H を「SS未来創造」という科目で開講しています。最先端の理数教育を通して「世界に貢献する科学イノベーターとなる人」を育てるプログラムです。大学、各種研究機関や企業などと連携し、3年間の自然科学の課題研究に励みます。現在、文部科学省指定の3期目(2023〜2027年度)です。SSHの学びのステップは以下の通りです。
1年次(SS未来創造Ⅰ)
誰も答えを知らない、自分だけの「問い」をつくる
第1期〜課題研究
・第1期は、物理・化学・生物・地学に関する基礎的な実験から着想し、小規模な研究を実施します。・第2期は、課題の研究構想、第3期前半は、計画を調整しながら本実験に入ります。
2年次(SS未来創造Ⅱ)
科学のチカラで「問い」の解決に迫る
第3期後半〜課題研究
・第3期後半から第4期は、研究構想に基づいてデータを増やし、分析・考察の成果を校内外のイベント等で発表します。
3年次(SS未来創造Ⅲ)
成果を広く発信し、新たな「問い」を見つける
第5期 課題研究
・第2期以降の課題研究を論文として整理するとともに、それを英訳して発表します。
・引き続き大学以降の研究や進路に結び付ける方法を検討し、今後の研究計画や大学以降の研究構想を立てていきます。
活動内容 ※実施の一部を紹介します
・SSH生徒研究発表会 ・サイエンスツアー・フィールドワーク
SGH (スーパーグローバル
ハイスクール)とは何か
SGH (スーパーグローバルハイスクール)とは何か
SGHは、文部科学省が2014年度から開始した事業で、グローバル人材の育成を目的としています。指定された高等学校は、国際的な課題に対する探究活動や、英語によるプレゼンテーションなどを通じて、生徒の国際的な視野を広げています。
SGH指定校の実践例(札幌日本大学高等学校)
地球規模の課題を考える思考へ-問題解決力の国際的素養を広げ、世界で活躍する思考を養成します-
札幌日本大学高等学校では、SGHとして、SGL (スーパーグローバル・リベラルアーツ・プログラム)とMLP (メディカルリーダー育成プログラム)、の2つのプログラム、さらに中学生・高校生全コースの希望者を対象に医学・医療講座を開講しています。
[SGL]思考力・判断力・表現力。国際的な視点で課題を解決。
グローバル化が進行する中で、過去の経験だけでは対処できない新たな諸問題に対し、幅広い視点で物事を捉え、主体的に行動し、解決に導くグローバル人材を育成します。また、S G L 活動を通して、異なる文化的背景や価値観への理解ができ、異質な環境での対応力・ゼロベースでの構築力・問題解決型思考力を持つ生徒の育成および授業モデルの開発を行います。さらに、北海道に暮らす私たちだからこそ、身近にある地域の産業課題を世界視野で捉えることが必要だと考えます。洗い出した課題と向き合い、解決に導くグローバル人材を育成します。
グローバル人材像の設定
・国際理解教育の推進 ・海外フィールドワーク(予定) ・課題探究型カリキュラムの実践
課題研究
・企業との連携による問題提起 ・集団議論による意見交換 ・成果発表会の開催
大学との連携
・外国人教員等の派遣 ・課題研究における連携 ・外部委員による研究内容の評価
[MLP]医療分野を対象としたプログラム。医学部・医療系学部受験に必要な医療にかかわる基礎教養を育成。
医療問題の探究活動のために、生徒は積極的に研究機関や病院を訪問します。また、実際に医療現場で働いている医師、看護師、薬剤師の方との交流や体験を通じ、リアリティを感じながら探究活動を行っていきます。さらに、探究マインドを軸として、将来の医療コミュニケーションの基礎を築き、大学入試の面接や小論文にもつなげていきます。
有為な医療人材として
・多角的な物事の見方や考え方
・問題提起能力や問題解決能力の育成
・豊かな感性と幅広い教養
将来に向けた知識・技能の習得
・ソーシャルスキル ・ホスピタリティ
・コミュニケーション
<医学・医療講座>
医学・医療人材の育成を目指して。将来、医師や医療職に就くことを目指している生徒を対象に、第一線で活躍する医学研究者や医療従事者等の先生方による医学・医療講座を2024年度から開講しています。2025年度からは30年にわたり医学部受験指導に従事した私が副校長として監修を務めています。
2025年度開講予定講座
①「北海道の地域医療について」講師 JCHO札幌北辰病院外科部長寺崎康展先生
②「地域住民の健康を捉える」講師 札幌医科大学保健医療学部看護学科助教 阿部弥喜先生(本校一貫5期生)
③「感染症社会・高齢社会・地域社会・グローバル社会を担う医療人材の育成」講師 札幌日本大学中学校・高等学校副校長 森弘達
④「医師としての責務」講師 東京ベイ・浦安市川医療センター循環器内科部長・日本ボクシング連盟会長 仲間達也先生
⑤「女性のキャリアプランとワークライフバランス」講師 宮の森レディースクリニック院長池田詩子先生
⑥「探究をはじめよう、探究の考え方」「生命科学とは何か」東京大学名誉教授 石浦章一先生
⑦「後輩に伝えたい後ろ姿」講師 本校卒業生による医療系大学進学者・現役医師・看護師・薬剤師の先生方
⑧「新生児・小児医療」講師 札幌医科大学病院・周産期・小児科医 坂井拓朗先生
IBDP (国際バカロレアディ
プロマプログラム)とは何か
IBDPは、国際バカロレア機構が提供する国際的な教育プログラムで、16歳から19歳の生徒を対象としています。日本では、文部科学省がその導入を推進しており、一部の科目を日本語で履修できる「日本語DP」も導入されています。
IBDP認定校の実践例(札幌日本大学高等学校)
DP (デュアルランゲージDP)と呼ばれるもので、2〜3科目を履修します。札幌日本大学高等学校は、すべての開講科目で2つのレベル(SL ・HL)のクラスがあります。開講科目は以下の通りです。
・Japanese A (日本語)
・English B(日本語)
・History (日本語)
・ESS (英語)
・Biology Chemistry Physics (日本語)
・Math (AA)(日本語&英語)
・VisualArts (英語)
※HL…ハイヤーレベル SL…スタンダードレベル
SSH ・SGH ・IBDPの共通点と相違点
SSH、SGH、IBDPはいずれも、「探究的な学び」を重視し、従来型の一斉授業から脱却しようとする点で共通しています。生徒の主体性や批判的思考力、表現力、コミュニケーション能力を高めることが各プログラムの中核に据えられています。また、いずれも「世界で活躍できる人材の育成」という共通のビジョンを持っています。
SSHは科学技術の分野、SGHは国際理解と社会課題への取り組み、IBDPは包括的な学びを通して、全人的な教育を目指しているという点で、アプローチや教育内容に違いがあります。
<参考> 理数探究やIBDPに関する参考文献・推薦図書・推薦番組
●石浦章一『理数探究の考え方』(ちくま新書)
●赤羽寿夫他『国際バカロレア教育と教員養成』(学文社)
●『私教育新聞』(モノリス・ジャパン)
●YouTube 番組「教育プロデュース・チャンネル」(モノリス・ジャパン)

[森 弘達先生プロフィール]
2025年4月から学校法人札幌日本大学学園札幌日本大学中学校・高等学校副校長・吹奏楽部スーパーバイザー、学校法人明星学苑明星中学校・高等学校特別顧問・明星大学学友会吹奏楽団教育連携コーディネーター・明星アカデミックウインドオーケストラ指揮者、学校法人電子学園iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授、特定非営利活動法人ロジニケーション・ジャパン副理事長、国際バカロレアディプロマプログラム(IBDP)アドミニストレーター、シュピール室内合奏団アドバイザー、沖縄探究ラボ所長・森教育研究所所長。東京、北海道、沖縄を拠点に全国で教育活動を展開。学校リブランディングコンソーシアム設立準備中。著書に『ハイスコア!共通テスト攻略現代社会』(Z会)、『特化型小論文チャレンジノート志望理由・自己PR編』(第一学習社)、探究教材『FUTURE』volume.1・2・3・小学生版(SRJ)など多数。『私教育新聞』連載。モノリス・ジャパンのYouTube番組『教育プロデュース・チャンネル』に出演。コロナ禍でも自ら学びを進め、学校図書館司書教諭の免許取得、学校法人東京音楽大学指揮研修講座修了。国立大学法人東京学芸大学大学院では学校経営、学校組織マネジメント、学習する組織、私学経営等を研究。公立大学法人名桜大学、学校法人都築学園日本薬科大学において、FD研修や教職員研修の講師を務めた。
学校法人昭和薬科大学附属高等学校・中学校教諭・進路指導部主任・生徒指導部主任・高校3学年主任・吹奏楽部顧問・ディベート部顧問、学校法人武蔵野大学附属千代田高等学院副校長、学校法人大妻学院大妻中学高等学校主幹・進路指導部長・探究科主任、沖縄県沖縄次世代委員会委員(沖縄県知事委嘱)、浦添市未来まちづくり委員会委員(浦添市長委嘱)、浦添市てだこ市民大学運営委員・講師(浦添市長委嘱)、浦添市まちづくり生涯学習推進協議会委員(浦添市長委嘱)、税務大学校沖縄研修支所講師、一般財団法人日本私学教育研究所研究員、大前研一創設特定非営利活動法人政策学校一新塾講師、沖縄県吹奏楽連盟理事、国分寺市介護保険運営協議会委員(国分寺市長委嘱)、国分寺市高齢者保健福祉計画・介護保険事業計画評価等検討委員会委員(国分寺市長委嘱)等を歴任。