一 はじめに

文部科学省は、令和4年、「いじめの状況および文部科学省の取組について」の調査結果を公開した。いじめの認知件数は、615,351件(前年度 517,63件)であり、前年度に比べ98,188件(19・0%)増加と、前年度より9万 8,188件(19・0%)増加し、過去最高となった。
私の問題意識はここにある。私は、仕事柄、経営学や経済学など、大学で専門科目を修めている目線から、私論ではあるが、あえて、教育論議に踏み込むことで、本稿の責務を果たすことにしよう。

二 ハンチントン『文明の衝突』論から読み解くもの

はじめに、大所高所から、ハーバード大学の国際政治学者、ハンチントン「文明衝突論」1996 年、を再検討する。「文明衝突論」は大国の武力報復を暗黙のうちに正当化する。そ れは、私たちを「恐怖と敵を作り出す文明文化」に導く。
「文明衝突論」は、国際政治レベルにはじまり、日本の都議会選挙においても、地方議会選挙においても、ひいては、小中高等学校、特別支援学校における、子ども達の教育環境においても、同様の手法・ロジック、思考回路として展開している。自分と考え方の違うモノはいやだ(敵だ)やっつけろ、と。結局、文明衝突論のパラダイム(考え方、枠組み)では、世界政治の現状を説明できて も、現状の問題解決にはならない。

三 「うさぎと亀の昔話」から読み解くもの

私は、熊本に赴任している際、10年近く、阿蘇で、小・中・高校生を対象に、バレーボール合宿を行っていた。その時、参加チームの子ども達に説いかけていた話題がある。 「うさぎと亀の昔話」だ。子ども達に、君たちは、その昔話(その試合)から、何を学ぶか、と、問う。
選手たちからは、「努力する心」とか、「最後まであきらめない心」とか、意見がでてくる。もちろん、どれも間違いではない。しかし、私は、あえて問う。
この話は、力がないと思われていた亀がうさぎの能力を超えて大逆転勝利をするから こそ成り立つ話である。耳の長いうさぎは、先生や大人たちの言うことをきく「いい子」 である。けれども、うさぎは、言われたことをこなすだけの試合(人生)である。
一方、亀は、きちんと、試合(人生)の目標設定がある。亀にとっては、きちんとゴー ルすることが目標である。うさぎにとっての目標は、まわりを見渡し、自分より能力の低い亀をばかにする(いじめる)ことである。うさぎが試合(人生)に負けるのは当然となる。
お互い、大人も、子どもも、自主的に、自らの目標設定を定め、コツコツと努力を重ねていけば、いじめのない明るい未来が構築できると思っている。

II.熊本にきて出会った宮本武蔵『五輪の書』と座禅

私が、難儀苦労の末、東海大学熊本キャンパス(採用当時は九州東海大学)へ人事がきまった時は飛び上がって喜んだ。熊本への引っ越しで、まず、熊本のイメージとして頭に浮かんだのが、宮本武蔵であった。武蔵は、雲巌禅寺に通い、霊巌洞にて『五輪の書』を書き上げた。何のご縁か、私が、さらに、湘南キャンパスへと、人事異動が内示されたころ、熊本県菊池市の玉祥寺にご縁ができた。和尚様に聞くと、そこは、宮本武蔵が通った雲巌禅寺と同じ宗派であるという。期間はよく覚えていないが、和尚様との相性もあってか、2か月から3か月は、玉祥寺(菊池市)で寝泊りしていたとおもう。その時に、朝の座禅を覚えた。座禅は頭と心をすっきりさせる。さらに『五輪の書』を読み返し、次のような解釈をした。

第1巻 地の巻。まず、足元を固めること。足元を掘り下げることは、ニーチェも同じことをいっている。汝自身の足元に宝あり、と。私の場合は、沖縄、そして、勤務地、熊本と神奈川、その他の東海大学に所属する多くのキャンパス、となる。

第2巻 水の巻。地域に入り込むときは、水のように、頭を低く、環境になじむ。

第3巻 火の巻。みんなと仲良くなったら、炎のように、みんなを巻き込んで、上昇気流をつくる。

第4巻 風の巻。 目標達成とは、木々が生い茂り(環境が整い)、さわやかな気持ちでいられること。第5巻 空の巻。陰陽五行説では「金」の巻、となる。しかし、「色即是空、空即是色」の考え方では、「空」とは自分が関係性のなかで存在していることを悟ること、となる。そんなことを学者として氣づいた私は、感謝の気持ちを込めて、玉祥寺と興福寺に、お布施を行った。そしたら、菊池に戻ってびっくりした。お布施の気持ちは、石碑と観音様になっていた(図2と図3)

図3興福寺に建立された観音様

図2玉祥寺に建立された石碑

III.縁尋機妙多逢聖因(えんじんきみょう たほうしょういん)

現在、社会教育として、月1回程度のセミナーを行っている。セミナー受講生からは、メンタル的な内容のカリキュラムが求められる。私の場合、スポーツメンタルトレーニングは、経験があり実績もある。しかし、マインドフルネスなどの手法は文献で読んだ程度の知識しかない。そんなとき、妹分の研究者仲間から、マインドフルネスの有資格者を紹介頂いた。感謝である。まさしく、「縁尋機妙(えんじんきみょう)多逢聖因(たほうしょういん)」である。私は、良いご縁を頂いたときは、常に、芥川龍之介『蜘蛛の糸』を思い出す。





儀間 敏彦(ぎま としひこ)
東海大学 教授 湘南キャンパス教育開発研究センター所属 那覇市出身

図2 ぎまとしひこのホームページ
https://richardgima.com/