
左から 石渡先生 儀間先生 瀧上先生
サッカーの名門・市立船橋高校から愛知東邦大学へと活躍の場を移した石渡先生。全国制覇を成し遂げた指導者として、また現在は大学で教鞭を執る教育者として、チームビルディングと人材育成の第一線で活躍を続けています。今回のインタビューでは、チームスポーツから学校経営、そして家庭や塾といった様々なコミュニティにも通じるチーム作りの本質について、豊富な経験に基づいた貴重な洞察をお聞かせいただきました。

―チームを率いる立場として感じる、難しさや面白さはどんなところでしょうか。
今、大学高校で総監督をやらせてもらっているのですが、競技性があるかないかで選手の気持ちも関わり方も大きく違ってきます。習い事のように好きでやっているのは当然興味関心があるからですが、そこにもっとうまくなりたい、強くなりたい、勝ちたいという気持ちが入ってくると、チームを組織として見据え、根幹となるチームの方針や目標の理解が必要になります。チームとしてまとまるためには方針・目標・やりがいの3つの要素が重要です。レベルアップの際に壁に当たったら、乗り越えられるかどうかはその組織に愛着があるかないかで変わってきます。その組織で頑張りたい、どうしても組織の一員でありたいと思えなければ組織自体もうまくいかないし良くはならないのでチームの魅力を上げることが指導者の使命であり、そこが難しく、また面白い点だと思います。
―チームの魅力を上げることが重要とのことですが、どのように魅力を上げるのでしょうか。
それはもう試行錯誤ですね。指導者がいくらしっかりと方針を持って貫いてもうまくいかない時はあります。うまくいかなくてもより良い方法を手探りで見つけていく中で、段々チーム自体も成長していきます。また、チームの魅力を上げるには、選手たちが楽しいと思わないと駄目、楽しいと思えるようなチームビルディングを目指しています。
サッカーというスポーツの特性を活かしたチーム作りについて教えてください。
サッカーはミスのスポーツなんです。足を使うので、時として狙った所にボールが行かないことが多い。ミスが起こることを許容するスポーツなので、技術的なミスは責めないようにしています。ただし、判断については重要視します。ボールだけでなく、相手のゴール、味方の動きなど見るべきポイントを選手たちに伝え、練習します。周りを見てミスを恐れずにチャレンジしていく環境作りが大切です。
科学的な裏付けを重視されているとのことですが、座学やミーティングも多く設けているのでしょうか。
サッカーには【三つのB】が必要と言われます。ボディ(身体)、ボールコントロール、そしてブレイン(頭脳)です。座学では、良いプレーの映像を見せたり、前の試合の得点シーンや課題のシーンを切り取って選手に見せたりします。また、毎週のようにJリーグの素晴らしいシーンをグループLINEに流して選手に気づきを与えながら、サッカーの頭脳を磨くように心がけています。
―石渡先生がチームビルディングの必要性を感じたのはいつ頃でしょうか。
サッカーを始めたのは小学5年生ですが、今考えるとチームビルディングの必要性を感じたのは高校生の時ですね。高校の先生が筑波大学(当時の東京教育大学)というサッカーの歴史ある大学で勉強された方で、先生の指導からサッカーの理論や奥深さを学びました。サッカーに必要な知識と身体、そしてチームビルディングの重要性を知る転機となりました。
―⒒人それぞれの個性や特徴が違う中で、適性を把握する際に必要なことは?
一番は選手の良さを見抜くことですね。一人一人性格も育った環境も家庭も違うわけで、個性を尊重しながら良い点や適正を見抜き、選手にできる限り活躍の場を用意することが重要です。そして、ミスに対して忍耐強く機会を与えることが指導者には求められると思います。技術だけでなく、気持ちの面にも目を向けて選手の適性を探りながらチーム作りをしてきました。
―校長時代の印象深いエピソードがあれば教えてください。
東京オリンピックを獲って今や日本のトップである体操の橋本大輝選手は、私の市立船橋高校校長時代の生徒でした。高校入学当初、彼は千葉で大きな実績のないまだ無名の選手でしたが、怪我をしない強い身体と、指導者の教えを素直に聞く気持ちがあり、驚くような成長を遂げました。彼が高校3年生の時に当時の日本代表監督から海外遠征の許可を求められた時、監督から「橋本選手は東京オリンピックの隠し球になる素質がある」と説得され、異例の公欠で遠征へ送り出しました。結局オリンピックはコロナで1年延期になり、彼は卒業して順天堂大学で新たな指導者にも出会い、更に成長する機会を持てた。それが金メダルという結果に繋がったのです。無名だった子が3年4年で世界のトップまで成長する姿を見ることが出来た。選手の成長は、本人の努力はもちろんですが、色々なきっかけやチャンスを逃さず掴むことで、選手は際限なく伸びていくのだと実感した経験でした。
―結果を出すチームや人の共通点について教えてください。
自分の方針をしっかりと持つことが大切だと思います。また指導者ならば、選手を信頼することは当然欠かせません。サッカーは野球と違って試合中タイムが取れません。選手に任せる部分が大きい。だから選手を見抜く力も必要ですが、方針を決めたら選手を信じ選手に任せるという信頼関係がうまく取れている指導者が結果を出せると思います。
―次世代を担う若い世代とその保護者にメッセージをお願いします。
環境が大きく変化し、AIやSNSなど様々な情報が取れる時代ですが、変わらず必要なのは、人間の成長です。子どもたちには、自分をしっかりと持つことと、目標や目的意識を持って向かっていくことを願っています。また、保護者の皆さんには子どもの成長のために、子どもを信じて自立させることが大切ですとお伝えしたいと思います。
愛知東邦大学・東邦高校サッカー部総監督元市立船橋高校校長
元市立船橋高校サッカー部監督・部長
石渡 靖之 Ishiwata Yasuyuki
船橋市立船橋高校サッカー部で在任中9回の全国制覇を達成した実績を持つ指導者。現在は愛知東邦大学人間健康学部で教授として教鞭を執りながら、同大学及び東邦高校のサッカー部総監督を務めている。
