ナナフシという名前を聞くと、皆さんはどんな昆虫を思い浮かべますか?きっと、「体や脚が細長くて、色も茶色っぽくて、まるで木の枝みたいな虫」というイメージを持つ人が多いのではないのでしょうか。実際、ナナフシの仲間は枯れ枝に擬態している種類が多く、歩くときも風に揺れる枝のように体をゆらゆら動かしながら歩く種類が多いです。そんな彼らを見ていると「植物になりきっているなあ」と毎回感心するのですが、今回紹介するナナフシは違う角度から植物になりきろうとしているナナフシです。ツダナナフシ Megacrania tsudaiは宮古島、石垣島および西表島、国外だと台湾などに生息するナナフシで、体長は約11cm、体幅が1cmにもなる大型のナナフシです。このツダナナフシの植物なりきりポイントは、「分布域の広げ方」です。ツダナナフシの卵は海水に浮く構造をしており、海流に乗って分布域を拡大すると考えられています。以前、第8回の記事でビーチコーミングについて特集し、海流に乗って流れてくる豆や種子(海流散布種子)について触れましたが、ツダナナフシの卵はまさに、海流散布種子のように。また、本種の卵は海水に一定期間浮かばせた方が、孵化率が高いことも明らかになっています。

夜間、アダンの葉の上にいたツダナナフシのメス成体。西表島にて
さらに、本種のエサは海岸植物であるアダンの葉なので、流れ着いた先でのエサの心配もありません(ただしアダンは暖かい地域の植物なので、あまり北まで行ってしまうと生えていません)。ちなみにこのツダナナフシは、敵に襲われると首の付け根からペパーミント(ハッカ)の香りがする防御液を飛ばして身を守ります。それも狙い撃ちが可能らしく、相手のいる方向に向かって的確に飛ばすようで、臭いうえに目に入るとかなり痛いようです。また、オスがほぼ生まれず、メスだけで交尾をせずに繁殖する「単為生殖」という面白い生態も持っています(ただし、これは他のナナフシ類でも見られます)。
ちなみに、本州から九州、および久米島に分布するナナフシモドキ Ramulus mikadoは卵が鳥に食べられても消化されず、フンとして排出されたあとも孵化することが近年発見され、こちらも植物のように分布を広げる虫として話題になりました。長い時間をかけて姿だけでなく生き方まで植物のようになってしまったナナフシたち。是非機会があったら観察してみてください。

手に乗せてみたところ。日本の虫とは思えない大きさだ。

孵化したばかりの幼体。幼体は柔らかいアダンの新芽や葉先を食べて育つ。

仲間 信道なかま のぶゆき
沖縄生まれ沖縄育ち。好きな生き物は多足類(ムカデ、ヤスデ、ゲジなど)、昆虫、爬虫類など広く。専門はタマヤスデの分類。多趣味で、バイクいじり、古物収集、レコード鑑賞などが好き。琉球大学大学院農学研究科修了。修士(農学)
一般社団法人 キュリオス沖縄
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