こんにちは。《ディベート部の眼》第十二弾です。今回は新高校一年生の二名が共同執筆しました。内容はタイトルにもある通り、本校で今年度から試験的に始まったBYOD¹についてです。県立高校では令和4年度の新入生から県の補助を受けて一人一台の学習端末を活用した学びが始まっているようですが、私学である本校はすでに生徒が利用している端末をそのまま学習に活用する方法を取っています。学校が指定した端末ではないため不便・不安な点もありますが、デジタルネイティブ世代の生活必須ツールとしてのスマートフォンをうまく学校生活にも活用してほしいと思います。

眞喜屋 仁  Makiya Jin
八幡 永遠  Yawata Towa
昭和薬科大学附属高等学校1年。高校ディベート部。

第28回九州地区中学・高校ディベート選手権大会 優勝
第28回全国中学・高校ディベート選手権大会出場
第3回西日本中学ディベート交流会出場
第1回政策提案型パブリック・ディベート全国大会出場

導入

一昨年のディベート甲子園(中学の部)の論題は「日本は小中学生のスマートフォンの利用を禁止すべきである」でした。その際には、スマートフォンの功罪について多面的に検討し、その利便性と危険性について考えていました。今年度より本校では生徒個人の端末を授業や部活動で使用できるようになりました。ディベートで培った知識とBYOD導入一か月の経験から高校生のスマートフォンの利用について考えてみたいと思います。

BYODの利点

スマートフォンの特長から生じたBYODの利点について私たちが感じたことを三点挙げてみます。

①手軽にとれるコミュニケーション
スマートフォンは便利なコミュニケーションツールとして利用されています。
平成28(2016)年度に内閣府が行った「子供・若者の意識に関する調査」(平成28年12月に全国の15歳から29歳までの男女6000名を対象に実施したインターネット調査)²の結果を図から読み取ると、他者と行う活動でのインターネット利用について、「そう思う」と答えた割合は「率直に話ができるので便利」が61・3%「深く関わらなくてすむので参加しやすい」が67・7%となっています。このように、対面では言えない恥ずかしいような事でも、インターネット空間内では言え、関係を築きやすいという利点があります。
4月にBYODが始まって大きく変わったと感じるのは、先生と生徒での意見交換、あるいは生徒同士での交流の場面が増えたという点だと思います。
例えば普段は皆が手をあげにくい発表の場面で、グーグルフォームなどを通して意見を収集したり、授業後のアンケートをグーグルクラスルームで回収したりするなど、普段の授業よりも生徒が積極的に授業に参加できる環境が生まれています。

②圧倒的な情報量
スマートフォンはインターネットの世界に直接入っていけるため、膨大で、幅広いジャンルの情報に接することができます。自分が調べたいと思ったことを即座に調べられ、出てくる情報は一つだけではなく、今のトレンドやゴシップ的な内容からあらゆる分野の専門的な情報まで様々です。
BYODが始まって、私たちは、自分の端末を使い、授業内で気になったあらゆる情報を調べることができるようになりました。例えば、英単語や古典単語は電子辞書でも調べられますが、数学や物理の公式の証明、社会の教科書で出てくる用語の背景知識などについては、電子辞書では調べにくく、スマートフォンが使えることでその場ですぐに調べることができるようになりました。
これにより、分からないことや興味を持ったことをすぐに自分で調べるという習慣がつき、主体的に学習へ取り組む姿勢が生まれやすくなっていると感じます。
このようなスマートフォンの特長から生じる利点だけでなく、BYODが浸透することで、もっとたくさんのメリットが生まれてくると思います。
昨年まで私たちがスマートフォンを使うのはディベート部の活動で資料を調べたり、議論を作成したり、オンラインで試合をしたりする以外では、ゲームやSNS、YouTubeの視聴などがほとんどでした。しかし、BYODスタートに伴って、学校からは情報リテラシーについての注意喚起が行われるようになったため、これまで以上に情報リテラシーについて学ぶ機会が増え、自分自身の普段のスマートフォンの使い方を振り返るようになりました。また、ある教科では教材やプリント類がデータとして配信されるので、教材管理がとても便利になりました。今までは今後使わないだろうな、と思ったプリント類はどんどん捨てていたので紙資源の消費にとっても良いことだと思います。
これまでは遊んで楽しいアプリをよく探していましたが、BYODが始まってからは自分の学習や日常生活を便利に支えるアプリを探すようになっており、自律的で快適なスマートフォンライフを送れるようになっています。

BYODの懸念点

さて、ここまで、BYODが始まってから気づいた利点について見てきました。一方で、BYODはスマートフォンの特長ゆえに学習や生徒の健康への悪影響も生じているように感じます。それについても考えてみたいと思います。

①学習への悪影響
スマートフォンは個人端末であるため、学習とは直接関係のないアプリもたくさん入っています。そして、授業中にそれらのアプリから通知がきて振動したりすると、生徒は友達からの返信が来たのか、新しいSNS投稿があったのか、などと、どうしてもその通知内容が気になってしまいます。実際にBYODが導入された最初の頃、授業中や小テスト中に誰かの通知音が聞こえることがありました。授業中や小テスト中に通知音がなると、本人はもちろん近くの席の生徒もそれに気づき、そこまで持続していた集中が途切れてしまうことがあります。結果として、授業やテストへの取り組みが疎かになってしまうかもしれません。

②すぐに写真や動画を撮ってSNSに投稿できる
BYODが始まってから、休み時間や自習の時間に、友達同士や教室の状況を写真に撮り、SNSに上げている人を見かけるようになりました。それがどのような画像かはわかりませんが、もし生徒の顔や名前の書いてある教科書などが写りこんだ画像がSNSに上げられてしまうと、そこから個人情報が漏洩してしまいます。個人情報漏洩は、思わぬ犯罪に繋がる可能性がありますし、一度拡散した画像を後から回収しようと思ってもそれは難しく、内容によってはデジタルタトゥーとして一生残り続ける危険性もあります。

③ブルーライトによる身体への影響とスマホ依存という病気
スマートフォンを始めとした多くのデジタルツールはブルーライトを発します。このブルーライトは目の疲れを増幅させ、眼精疲労、肩こり、腰痛、不眠などの身体的・精神的疾患といった健康障害を誘発する危険があるようです。特にBYODでは自分自身の小さなスマホ画面を注視することもあり、その時間が長くなることは避けるべきかもしれません。
さらに「スマホ依存」という言葉をご存じの方も多いと思います。東邦大学医療センターによると、スマホ依存は「スマートフォンの使用を続けることで昼夜逆転する、成績が著しく下がるなど様々な問題が起きているにも関わらず、使用がやめられず、スマートフォンが使用できない状況が続くと、イライラし落ち着かなくなるなど精神的に依存してしまう状態」と定義されています。私たちの学校にこのような生徒がいるのかはわかりませんが、BYODが始まってしまうとスマートフォンが個人の管理責任下におかれるため、依存症の生徒がいると授業への集中力を欠いてしまうかもしれません。

昭和薬科におけるBYODの課題と解決策を考える

さて、ここまでBYODの利点と懸念点を考えてきました。ここからはBYODが始まって実際に起きている問題とその解決策について考えてみたいと思います。
BYOD導入前から一部の生徒は空き時間にゲームや写真の撮影をこっそりしていたので、BYODが始まるとそれがいろんなところで出てくるのではないかと思っていました。実態は私の予想よりも酷く、校内で撮影された写真がSNSアプリを通じて投稿されています。その中には相手がおそらく同意していないような盗撮らしい内容もあり、これが今後の生徒同士のトラブルに発展しないかが懸念されます。
一方、多くの生徒が授業中にスマートフォンで関係のない事をしてしまうのではないかと思っていましたが、実際の授業中はスマートフォンで関係ないことをするような人は多くありませんでした。ただ、休み時間の教室の隅や教師が不在で自習をしているときなどは監視の目が少ないためスマートフォンで遊んでいる人が見られます。今後も教師の監視が届かない所だと、生徒はスマートフォンを触って遊んでしまう可能性があると思われます。
このように、BYODによって朝学級でスマートフォンを預けなくてよくなったことを、自由に使えると誤った解釈をしてしまう生徒がおり、校内でのスマートフォンの使用に緩みが出ているように感じています。
今後、生徒のスマートフォンの使用状況が悪化するのであれば、校内でスマートフォンやSNSをしている事が判明した生徒に対して厳しい処分を課すというふうになるかもしれません。罰則があれば今よりも少しはスマートフォンの使い方が正されると考えられます。
しかし、本来は罰則によって行動を制限するのではなく、生徒1人1人のネットリテラシーやスマートフォン利用リテラシーを向上させていくことで現在生じている弊害の多くは防げると思います。どのような規則をつくっても守らない人は守らないので、周りの友人たちがそれを良くないと言える環境をつくっていくことも大切かもしれません。
BYODでの学習が始まって一ヶ月ですが、私は多くの授業でその良い効果を感じており、私の友人たちも同じような意見を持っています。今後BYODに慣れてくると、さらに効果的な学習ができると期待しています。

最後に

昭和薬科では今年度はあくまでBYODを試験的に導入しているようで、一学期の間がその実証的な期間だということです。そのためか、今はまだすべての授業で積極的に端末を使用するという状況ではないのですが、今後多くの授業で使えるようになると、その使用用途も、検索や回答募集といった限定的なものから、ノート機能の利用やテキスト配信のように拡大していくでしょうし、より効率的な学習ができると思います。
また、教材の多くが電子化されるといつも学校に多くの教科書やノートを持ち運んでいる私たちにとっては身体的負担が減るという大きなメリットも生まれます。
大学生になればスマートフォンを誰かに管理されて使用するということはなくなりますし、今後の大学生活やその先の人生においてスマートフォンを使わない生活というのはおそらく成立しないと思います。しかし、中高生に限ってみると、スマートフォンをゲームやSNSをするものとしか認識していない人もいると思います。そのため高校生の間に学校の授業や課外活動を通して、自分のスマートフォンのいろいろな可能性を学ぶ機会をもつということは重要だと思います。自分の端末だからこそ、授業だけでなく生活全般にわたってスマートフォンをどう利用するのかを考えることができると思います。今はまだ不適切な利用も一部で見られますが、BYODが進んでいけば遊ぶ時間も含めて適切に自己管理できるようになるかもしれません。
今後さらによりよい使い方ができるように私たちも考えていきたいと思います。