
コンクールを、練習習慣の味方にしてみよう!
――結果よりも大切な、その手前の時間の使い方――
「家ではなかなか練習しなくて……」
これは、ピアノ教室で保護者の方から最も多く聞かれる言葉の一つです。
今の子どもたちは、とにかく忙しく過ごしています。学校の宿題に始まり、塾やほかの習い事、友達との遊びやゲームの時間も大切にしたい。その限られた一日の中で、毎日ピアノに向かう時間を確保するのは、決して簡単なことではありません。大人でも、目的のはっきりしない作業を継続するのは難しいものです。子どもたちにとって「なんとなく弾く」練習を続けることは、なおさら大変なことと言えるでしょう。
多くの生徒さんを見ていると、練習の習慣化の大きなカギを握るのは、「目標があるかどうか」であることが分かります。
明確な目標があると、練習は「やらされるもの」から、少しずつ生活の一部へと変わっていきます。その目標として分かりやすく機能するもののひとつが、コンクールの存在です。
コンクールと聞くと、「順位を競う厳しい場」「特別な子が出るもの」という印象を持つ方も多いかもしれません。しかし、指導の現場でコンクールを勧める理由は、順位を勝ち取ることそのものではありません。期限の決まったゴールがあることで、日々の練習に見通しが生まれるからです。
■「逆算思考」が育つ、3ヶ月プロジェクト
ピアノの練習が続かない理由の多くは、ゴールが見えないまま取り組んでいることにあります。コンクールに申し込むと、本番の日程が決まり、生徒さんは講師と一緒にそこから逆算して考えるようになります。
例えば、本番が3ヶ月後だとしましょう。
最初の1ヶ月: 譜読みを終え、間違えずに通せるようにする。
次の1ヶ月: 曲の強弱やニュアンスをつけ、表現を深める。
最後の1ヶ月: 暗譜をし、本番を想定してお辞儀から通して弾く練習や、人前で弾く度胸をつける。
このように「今、何をする時期なのか」が分かるだけで、子どもたちの意識は大きく変わります。「今日はここまでやろう」という小さな目標が生まれ、「できた」という実感が積み重なっていきます。これは、大人が仕事で行うプロジェクト管理とよく似ていませんか? コンクールに向けた練習は、目標を立て、計画し、実行する力を育てる実践の場でもあるのです。
■「やる気」に頼らず、「習慣」で動く
コンクールという目標ができると、日々の練習に対するハードルも下がります。 習慣化のために必要なのは、長時間の猛練習ではありません。「ピアノの前に座る」という行動のスイッチをいかに軽くするかです。
「本番まであと〇日」という事実が、背中を押してくれます。「今日は疲れているから5分だけにしよう。でも、苦手なあの小節だけは確認しておこう」といった具合に、短時間でも中身の濃い練習ができるようになります。 行動が習慣になると、やるかどうかを決断するエネルギーを使わずに済みます。その分、集中力を練習の中身に向けることができるようになり、結果として上達のスピードも上がっていくのです。
■ピアノのその先へ続く「生きる力」
こうして身についた習慣は、ピアノの枠を超えて生きてきます。実際に、コンクールを経験した後、「勉強も自分で計画的に進めるようになった」「テストの準備が上手になった」という声も聞かれます。
何かに真剣に向き合い、期限までに仕上げるというプロセスを体感することで、物事に取り組む際の「型」が身につくのでしょう。これは、学業はもちろん、将来社会に出た時にも大きな武器となる「生きる力」そのものです。
もちろん、思うように弾けずに落ち込むこともあるはずです。それでも、投げ出さずに立て直す経験は、心の強さを育てます。本番で最後まで弾ききったという事実は、結果以上に大きな自信として残ります。
コンクールは、単なる競争の場ではありません。 自然とピアノとの向き合い方を整え、努力を習慣に変え、自分を律する心を育てるための、最高の「練習の味方」です。
結果よりも、その手前の時間。そこで生徒さんは確実に成長しています。ピアノ練習から生まれた習慣は、音楽の枠を超えて、これから先のさまざまな挑戦を支えてくれる一生の財産になるはずです。
千葉県出身ピアノスクールプリマ主宰
全日本ピアノ指導者協会(ピティナ)演奏会員

