連載:森 弘達先生と読み解く 教育改革最前線⑧

感染症社会・高齢社会・地域社会・ グローバル社会を担う 医療人材の育成

~800名以上の医学部合格者を指導した経験から医学部受験・医療人材の育成を考える~

新型コロナ感染拡大による医療体制のひっ迫、人生100年時代の高齢社会における認知症や生活習慣病等の患者の増加、僻地・離島における医師不足、診療科に よる医師の偏在、グローバル化への対応、災害医療への対応など、日本の医療界には課題が山積しています。このような中で医療人材の育成は急務です。今回は、28年にわたり、医学部受験指導に携わり、800名以上の医学部合格者を指導した経験を持ち、医療系探究プログラムの開発・実践や医療系小論文・面接教材の執筆・ 監修等を行っている森弘達先生が感染症社会・高齢社会・地域社会・グローバル社会を担う医療人材の育成と医学部受験について読み解きます。

21世紀に求められる医療

21世紀に求められる医療として、100年生きる地球人の医療-国際化と超高齢社会(医療の国際貢献)、患者の立場に立った医療-超高齢化社会に求められる医療、技術と生命の尊厳が調和した医療が挙げられます。また、21世紀の医療を担う医療人材には、豊かな人間性(豊かな感性・深い洞察力・倫理観)、優れた人権意識(患者中心の態度・知識・技能、コミュニケーション能力)、幅広い教養、明確な目的意識(医療人として適性や資質の理解)、幅広い経験体験、生涯学習の意欲態度が必要です。さらに、単に医療者になりたいという願望だけでなく、自分はどのような医療を担い、どのような人材となりうるかを考えましょう。職業適性を見定めることが大切です。

医師として求められる 基本的な資質・能力

日本の医学教育は、グローバル化の影響を受け、医学教育モデル・コア・カリキュラムや「医学教育分野別評価基準日本版」に基づいた改革が進められています。モデル・コア・カリキュラムには、大学卒業時までに修得すべき実践的診断能力についてのねらいと学習目標が定められ、臨床実習開始前までに修得すべき知識・技能のレベルが示されています。また、「医師として求められる基本的な資質・能力」が定められています。内容は次の通りであり、医学部入試の面接や小論文で問われることも多いので受験生はしっかりと理解しておいてください。

①プロフェッショナリズム 人の命に深く関わり健康を守るという医師の職責を十分に自覚し、患者中心の医療を実践しながら、医師としての道(みち)を究めていく。
②医学知識と問題対応能力 発展し続ける医学の中で必要な知識を身に付け、根拠に基づいた医療(EBM)を基盤に、経験も踏まえながら、幅広い症候・病態・疾患に対応する。
③診療技能と患者ケア 臨床技能を磨くとともにそれらを用い、また患者の苦痛や不安感に配慮しながら、診療を実践する。
④コミュニケーション能力 患者の心理・社会的背景を踏まえながら、患者及びその家族と良好な関係性を築き、意思決定を支援する。
⑤チーム医療の実践  保健・医療・福祉・介護及び患者に関わる全ての人々の役割を理解し、連携する。
⑥医療の質と安全の管理 患者及び医療者にとって、良質で安全な医療を提供する。
⑦社会における医療の実践 医療人として求められる社会的役割を担い、地域社会と国際社会に貢献する。
⑧科学的探究 医学・医療の発展のための医学研究の必要性を十分に理解し、批判的思考も身に付けながら、学術・研究活動に関与する。
⑨生涯にわたって学ぶ姿勢 医療の質の向上のために絶えず省察し、他の医師・医療者と共に研鑽しながら、生涯にわたって自律的に学び続ける。 (医学教育モデル・コア・カリキュラム 平成28年度改訂版より)

医師になるまでの道しるべ

医学部6年間での学び、大学卒業後の臨床研修、臨床研修終了後を理解し、医師になるまでと医師になった後のキャリアプランについて考えてください。

(1)大学1~4年次 臨床実習前教育
早期体験実習やPBLテュートリアルでモチベーションを高め、問題解決能力を育成します。人体を模したシミュレーターを使ったシミュレーション教育や診療参加型臨床実習も行われます。また、臨床実習前に共用試験が実施されます。共用試験は、コンピュータを用いた知識の総合的理解力を評価するCBTと、診療技能と態度を評価するOSCE(客観的臨床能力試験)の2つから構成され、各大学は共用試験の結果を臨床実習に参加する要件としています。

(2)大学5~6年次 臨床実習と医師国家試験
診療参加型臨床実習によって基本的な診療手技を身に付けます。また、卒業後の臨床研修を行う病院探しをします。臨床医になるには、2年間の臨床研修が必要となります。医師臨床研修マッチングシステムを利用して臨床研修を行う病院が決定されます。そして、6年次の2月に医師国家試験を受験します。合格者が厚生労働省の医籍簿に登録され、医師免許を取得することができます。

(3)大学卒業後
医師国家試験に合格すると、2年間以上の臨床研修を行います。内科、外科、小児科、産婦人科、精神科、救急、地域医療が必修です。

(4)臨床研修後
臨床研修後は、専門医研修病院や大学の臨床系研究室に入り、専門医や研究医をめざします。そこで5~10年程度研鑽を積み、一人前の医師として医療活動を行っていくことになります。 専門医の基本領域  2018年に新専門医制度が導入され、19の基本領域とサブスペシャリティの2段階制となりました。専門医の19の基本領域は次の通りです。 ①内科 ②小児科 ③皮膚科 ④精神科 ⑤外科 ⑥整形外科 ⑦産婦人科 ⑧眼科⑨耳鼻咽喉科 ⑩泌尿器科 ⑪脳神経外科⑫放射線科 ⑬麻酔科 ⑭病理 ⑮臨床検査 ⑯救急科 ⑰形成外科 ⑱リハビリテーション科 ⑲総合診療 (日本専門医機構ホームページより)

専門医の基本領域

2018年に新専門医制度が導入され、19の基本領域とサブスペシャリティの2段階制となりました。専門医の19の基本領域は次の通りです。
①内科 ②小児科 ③皮膚科 ④精神科 ⑤外科 ⑥整形外科 ⑦産婦人科 ⑧眼科⑨耳鼻咽喉科 ⑩泌尿器科 ⑪脳神経外科⑫放射線科 ⑬麻酔科 ⑭病理 ⑮臨床検査 ⑯救急科 ⑰形成外科 ⑱リハビリテーション科 ⑲総合診療 (日本専門医機構ホームページより)

医師になるために必要な 医師国家試験

医師国家試験の問題数は400題であり、多肢選択式・マークシート方式で出題されます。2022年2月に実施された第116回医師国家試験の合格率は新卒が95・0%、既卒を含む全体が91・7%となっています。大学別の合格状況も発表されています。

医学部に合格する生徒像 (指導経験談)と 医学部受験アドバイス

これまで1000名以上の医学部受験生を個別指導したり、面談したりしてきました。また、現在も医学部受験生を指導しています。指導経験から医学部合格者には次のような生徒が多いことがわかりました。①志望動機がしっかりしている。②学力は絶対条件なので、学力が高いことは言うまでもないが、それ以上に「やりたい事」が明確である。③高いコミュニケーション能力と思いやりの心を持つ。④挨拶をする、時間を守る、体調管理ができる。そして、体力と精神力が高い。⑥自ら学習し、行動する力とそれを持続する力を持つ。さらに、週35時間以上の自学自習は必要であり、その時間を確保するためにタイムマネジメントを行うことが必須となります。

医学部入試で重要な 面接試験・小論文試験

ほとんどの大学の医学部入試では面接試験が行われます。面接試験を行うということは人物が評価されるということです。面接試験の配点が高い大学も多く、面接試験は重要です。しっかりとした準備と練習が必要です。面接試験では明確な志望理由と高いコミュニケーション能力が求められます。面接試験の形式には、個人面接、集団面接、集団討論があります。面接試験に臨むアドバイスは次の通りです。 ①面接官の目を見て話す。②意見には、エピソードと理由を付ける。③わかりやすく(ナンバリングなど)。④感情的にならない(医師が感情的になることは最悪です)。⑤短所を聞かれたら、短所とともに克服策を述べる。  また、多くの大学の医学部入試では小論文試験が行われます。国立大学では課題文型の出題が多く、私立大学ではテーマ型の出題が多いです。小論文試験では読解力・要約力・表現力が求められます。医療知識を問う出題もあり、新聞、書籍、WHO(世界保健機関)や日本医師会などのホームページ等で学習することをおすすめします。近年、人工知能(AI)と医療、ワクチン、災害医療などに関する出題も見られます。過去問や小論文模試などを利用して学習し、できれば学校の先生や通信添削などの添削指導を受けることをおすすめします。

プロフェッショナルによる 医療系探究講座を開講

勤務校である大妻中学高等学校では2021年度から21世紀に求められる医療人材の育成を目標に医療系探究講座を開講しています。私が長年の医歯薬看護系学部の大学受験指導の経験を活かしてプログラムを開発しました。高校1・2年生の医歯薬看護系学部志望者を対象に年間10回開講し、うち5回は第一線の現場で活躍する医療従事者や医学・薬学・歯学・看護学等の研究者を講師として迎え、専門に関する講義及び講師と生徒との対話による探究学習を行っています。残りの5回は私が担当し、医療や生命倫理等のテーマを設定し、ワークシートを活用した医療系の探究学習を行い、毎回、生徒たちが600~800字で自分の考えを論述し、添削指導を行っています。この添削指導は、大学受験の小論文試験や面接試験の対策に役立ちます。医療系探究講座を通して、生徒たちは医療への興味・関心を高めるだけでなく、将来、医療従事者や研究者として働く覚悟を持つようになります。なお、医療系講座は希望する中学生にもYou Tubeで限定配信しています。

《参考》医学部受験や医療人材の育成に関する参考文献・推薦図書
●森弘達『特化型小論文チャレンジノート』(第一学習社)※学校専用商品
●神尾雄一郎『改訂版書き方のコツがよくわかる医系小論文頻出テーマ20』 (KADOKAWA)
●可児良友『「医学部受験」を決めたらまず読む本』(時事通信社)
●日本医師会『ドクタラーゼ』(日本医師会)
●文部科学省『求められる医療・人材』(文部科学省)

森 弘達(もり ひろたつ)先生プロフィール

現在、学校法人大妻学院大妻中学高等学校進路指導部長・探究科主任(兼務)、国立大学法人東京学芸大学大学院教育学研究科(教職大学院)、学校法人電子学園情報経営イノベーション専門職大学客員教授、国分寺市介護保険運営協議会委員(国分寺市長委嘱)、国分寺市高齢者保健福祉計画・介護保険事業計画評価等検討委員会委員(国分寺市長委嘱)、国際バカロレアディプロマプログラム(IBDP)アドミニストレーター、国分寺マンション管理組合法人副理事長(日本一コミュニティ度の高い100年マンション構想を推進)。東京と沖縄を拠点に教育活動、探究や医学部受験に関する全国講演会やオンライン講演会、教員研修会を展開。大妻中学高等学校では主幹として、学則改定、併設型中高一貫校への移行、カリキュラム改革、STEAM探究講座・医療系探究講座・起業探究講座の設計・運営、コロナ対策などに取り組み、今年度から進路指導部長・探究科主任を兼務し、新時代の進路指導体制の構築、総合的な探究の時間の設計・運営、医療系探究講座・起業探究講座の設計・運営、デザイン思考・システム思考・ジグソー法による主体的・対話的・協働的な学び等の先進的な授業の開発・導入に取り組んでいる。著書に『ハイスコア!共通テスト攻略現代社会』(Z会)、『特化型小論文チャレンジノート志望理由・自己PR編』(第一学習社)、探究教材『FUTURE』volume.1・2・小学生版・STEAM探究教材『FUTURE』volume.3(SRJ)など多数。コロナ禍でも自ら学びを進め、学校図書館司書教諭の免許取得、学校法人東京音楽大学指揮研修講座修了。国立大学法人東京学芸大学大学院では学校経営、学校組織マネジメント、学習する組織、システム思考等を研究している。2022年度から公立大学法人名桜大学において、高大接続事業研修会及び大学教員対象の「大学教員の教育能力を高めるための実践方法」であるFD(ファカルティ・ディベロップメント)研修会の講師を務める。
学校法人昭和薬科大学附属高等学校・中学校教諭・進路指導部主任・生徒指導部主任・高校3学年主任(高校3年担任として12回卒業生を送り出した)・吹奏楽部顧問・ディベート部顧問、学校法人武蔵野大学附属千代田高等学院副校長、沖縄県沖縄次世代委員会委員(沖縄県知事委嘱)、浦添市未来まちづくり委員会委員(浦添市長委嘱)、浦添市てだこ市民大学運営委員・講師(浦添市長委嘱)、浦添市まちづくり生涯学習推進協議会委員(浦添市長委嘱)、税務大学校沖縄研修支所講師、一般財団法人日本私学教育研究所研究員、大前研一創設特定非営利活動法人政策学校一新塾講師を歴任。