学生団体ALOHA

沖縄の学生が東京大学(東大)を進学の選択肢として考えるきっかけを作るため、沖縄出身の東大生、経済学部4年の伊礼 漢さんが2023年に設立した「学生団体ALOHA(アロハ)」。そのメンバーの1人である2年の我喜屋 奏利さんと、全国47都道府県の進学校で年間100回以上の出前授業を行う東京大学 宇野ゼミの宇野健司先生に話を伺いました。

ー学生団体ALOHA立ち上げのきっかけは?

我喜屋 毎年10人ほどが沖縄から東大に進学していますが、統計的に見ると沖縄は人口当たりの東大生が最下位レベル。その理由として沖縄から東京大学に進学する際の心理的ハードルが高すぎるという問題意識がありました。実力的には東京大学を選択肢として考えられる人たちも、そもそも「地元から離れたくない」と県外の大学を目指すこと自体ハードルが高いと思い込んでいる状況があるのです。医師になりたいという明確な目標がなくても成績の良い人は県内の医学部に進学する傾向があり、進学後に違和感を感じる人も少なくありません。お金の問題もありますが、大きいのはマインドの問題だと思うので、東大に進学することで多様な進路を提供するきっかけになればという広い目標と、東大志望者と合格者を増やすという具体的な目標を掲げています。

ーALOHAの創設者について教えて下さい

宇野 創設者は僕のゼミ生で現在経営学部4年の伊礼漢君。サントリーに内定しています。伊礼君は薬科の出身で、彼の浪人時代にお世話になった予備校や塾の恩師にも力になってもらい、同じ沖縄出身の仲本 梨乃奈さんと2人で創設しました。

ーALOHAではどのような活動をしていますか?

我喜屋 勉強合宿や、東京遠征ツアー、サマーキャンプに東大生との交流会にオンライン面談と様々な活動をしています。今年の勉強合宿は、11月8日・9日の1泊2日で糸満青少年の家に宿泊して行いました。沖縄の中3生、高1生を対象に、約30人が参加。薬科や開邦、沖縄尚学、那覇国際、名護高校からも参加者がいました。内容としては、数学の班対抗戦を行い、5人でグループを作って難関大学の2次試験問題を2時間かけて議論しながら解いて得点を競いました。また、東大の英語と社会の問題に挑戦する企画や、東大の試験時間である150分間集中して自習する企画なども行いました。この長時間自習は勉強合宿の初回から続いていて、満足度も高いようです。

ー合宿などで中高生と交流してみていかがでしたか

我喜屋 私の頃と比べて、東京大学を選択肢に入れている人が増えてきていると感じます。低学年のうちはまだ努力次第でどの道にでも進めるという段階なので、東京大学をまだ選択肢の一つとして考えている子が増えていることを嬉しく思います。これからは彼らの「東京大学に行きたい」という気持ちをちゃんと叶えられるように、勉強面でもサポートしていきたいと思っています。

宇野 沖縄の子は素直で良い子が多いですね。東京は情報がいっぱいあって、いろんな先生や関係者がいるから頭でっかちになっている部分がありますが、沖縄は情報が少ない分、ちゃんと聞いてくれる感覚があります。 しかし保護者会などを通じて感じるのは、保護者が保守的で内向きだということ。教育熱心な人が多いのですが、「現役で入ってほしい」「浪人は駄目」「お金がないから沖縄の中で進学してほしい」という考えが強いです。そうすると選択肢が少なくなってしまいます。ALOHAのような団体が生徒のモチベーションを上げるだけでなく、保護者の意識も変えていく必要があると思います。

ー我喜屋さんが東大に行きたいと言った時、ご家族の反応はいかがでしたか?

我喜屋 特に反対などはされませんでした。東大を最初に考えたのは中学3年生の時で、当時の担任の先生に「このまま頑張り続ければ、東大とか難関大学は現実的に届くレベルになる」と三者面談で言われて、初めて自分でもそういう大学に行けるチャンスがあるならぜひものにしたいと思いました。横で聞いていた母も同じ気持ちだったようです。父は経済的な理由から大学には行っていないので、私が大学に行きたいと思うなら叶えてあげたいと「浪人になってもいいからまずはやってみなさい」と言ってくれたので安心して勉強を頑張ることが出来ました

ーALOHAに所属することのメリットは?

我喜屋 ALOHAに所属しているメンバーのほとんどは沖縄から東京大学に進学しているので、同じような悩みが共有できるし、ALOHAの活動の際に個人的な相談も出来ます。例えば、私は1つ上の同じ理科一類に進学した先輩に進振り選択(2年生の夏におこなう3年次からの学部・学科の選択)の相談をすることもありますし、沖縄出身の同期と頻繁に集まってお喋りしているので地元を離れていても心細くはありません。ALOHAでは、沖縄の高校から東大に進学した後輩に入学してからの色々な手続きなどもサポートしているので、入学後も一人じゃないと安心できると思います。

ー最後に、沖縄の高校生や保護者の方へのメッセージをお願いします。

我喜屋 私自身、高校時代にはやりたいことが見つかっておらず大学に入ってから自分の適性を見極めようと思っていましたが、今の中高生は既に何かやりたいことが見つかっていて、「東京大学に行ってこの研究がしたい」など明確な目標を持っている子が多いように感じます。そういった子たちのやりたいことが実現できるようサポートしたいという一心で活動しています。ALOHAのメンバーに相談していただければ、面談も実施していますし、東京大学に通うにはどういう手順を踏めばいいのか等という情報も団体内でまとめていますので、是非一度ALOHAの活動やイベントに参加してほしいと思います。

宇野 我々は一つの象徴として限界を設けずに最高峰を目指してみればという意味で「東大」と言っているだけで、京大でも早稲田でも慶應でも九州大学でももちろん構いません。自分の限界を設けずに挑戦してほしいという想いがあります。東大を目指しておけば、他の大学も行きやすくなりますし、その子の夢を叶えてあげたいという思いで活動しています。 沖縄の子供たちはみんなでサポートすべきです。高校の先生だけでなく、塾の関係者も含めて、沖縄全体で生徒たちの可能性を高めてあげたいと思っています。先生の声かけ一つで生徒の人生は変わります。「君ならもしかしたら東大に行けるかもよ、目指してみれば」と言うだけで違うのです。塾と学校の垣根を越えて、保護者も巻き込んで、オール沖縄でレベルアップしていきましょう。