連載:森 弘達先生と読み解く 教育改革最前線⑨
大学入試の大変動、 総合型選抜・探究型選抜の増加
~総合型選抜・探究型選抜と志望理由書・自己PR文の作成、面接試験対策~
日本の大学入試は、伝統的にペーパーテスト一発勝負の一般選抜(旧一般入試)がほとんどでした。しかし、近年、高大接続改革によって、大学入試は様変わりし、総合型選抜(旧AO入試)や学校推薦型選抜(指定校推薦・公募推薦)、大学付属校からの内部進学が多くを占めるようになりました。大学入試が大変動を起こしています。入試種類別の入学者数でみると、国公私立大学全体では、一般選抜の割合は、2021年度に49.5%となり、ついに50%を切ってしまっています。もはや総合型選抜・学校推薦型選抜が大学入試の中心であるといっても過言ではありません。また、高校で取り組んだ探究や課題研究を評価する探究型選抜もはじまりました。今回は、28年にわたり大学受験指導に携わり、東京大学学校推薦型選抜(旧推薦入試)をはじめ、国公立大学医学部医学科総合型選抜(旧AO入試)・学校推薦型選抜(旧公募推薦・地域枠)、慶應義塾大学総合型選抜(旧AO入試)で多くの生徒を合格させ、小論文・面接、志望理由書・自己PR文等の問題集や教材を執筆・監修する森 弘達先生が総合型選抜・探究型選抜、志望理由書・自己PR文の作成、面接試験対策などについて読み解きます。
高大接続改革によって誕生した 総合型選抜、そして、探究型選抜へ
総合型選抜は、詳細な書類審査と時間をかけた丁寧な面接等を組み合わせることによって、志願者の能力・適性や学習に対する意欲、目的意識等を総合的・多面的に評価・判定する入試です。また、「主体性」「多様性」「協働性」を評価します。高校生活での自身の活動を振り返り、「主体性」「多様性」「協働性」の観点から整理しておきましょう。 探究型選抜は、ほとんどが総合型選抜ですが、探究的な学習を通じて育成した思考力・判断力・表現力等、学びに向かう力・人間性等、課題を見出し解決する力、主体的・協働的に課題を解決し、新たな価値の創造やよりよい社会の実現に努めようとする態度などを丁寧に評価してもらえます。新学習指導要領によって高等学校で総合的な探究の時間がスタートしたことから、今後、探究型選抜は増加しそうです。
文部科学省が選定した大学入学者選抜における好事例 ~新規性・先進性のある入試~
文部科学省は、2021年10月に「大学入学者選抜における好事例選定委員会」を設置し、各大学から好事例と考えられる取り組みについて申請された内容を選定委員会において審査し、84件の申請から、計18件を好事例として試行的に選定し、2022年8月に結果が公表されました。これらは、新規性・先進性があり、他大学の参考となり得る工夫が見られ、入試だけでなく入試前後の教育を含め、高校での学びから入学後の学びまでが有機的につながっているものです。総合型選抜や探究型選抜がほとんどですが、一部一般選抜も含まれています。これら好事例は今後、他大学の総合型選抜や探究型選抜に大いに取り入れられていくことが考えられます。ここでは選定項目と選定された好事例を紹介します。
(1)選定項目(区分)
(ア)総合的な英語力の評価・育成
(イ)思考力・判断力・表現力の評価・育成
(ウ)多様な背景を持った学生の受け入れへの配慮
(エ)高校との連携をはじめとする高大接続改革の推進
(オ)文理融合の推進やその他の好事例
(2)選定された好事例の一覧 国 北海道大学「総合型選抜」(エ)
国 小樽商科大学「グローカル総合入試」(ア)
公 宮城大学「総合型選抜」(イ)(エ)
国 東京外国語大学「英語スピーキング入試」(ア)
私 東洋大学「英語外部試験の利用」(ア)
国 金沢大学「KUGS特別入試」 「超然特別入試」(エ)
私 藤田医科大学「ふじた未来入試」 「一般入試」(イ)
国 京都大学「特色入試」(イ)
国 京都工芸繊維大学「ダビンチ入試」(ア)(イ)
国 奈良女子大学「探究力入試『Q』」(イ)
国 島根大学「へるん入試」(エ)
国 高知大学「総合型選抜Ⅰ(医学科)」(イ)
国 長崎大学「一般選抜」(イ)
国 国立六大学連携コンソーシアム 「ペーパーインタビュー」(エ)
国 熊本大学「肥後時修館」(エ)
(3)多様な背景を持った学生の受入れへの配慮(選定区分 ウ)
私 東京電機大学「総合型選抜(はたらく学生)
私 東洋大学「『独立自活』支援推薦入試」 「外国にルーツを持つ生徒対象入試」
公 福岡県立大学 「全国児童養護施設推薦特別選抜」
出典 : 文部科学省HP「令和3年度大学入学者選抜における好事例集(令和4年8月)より」
探究型選抜は研究力を評価
2022年度から新学習指導要領が実施され、高等学校において総合的な探究の時間における問題発見・課題解決的な学習活動の充実が図られることになっています。 高校生や大学生が自らの関心に基づいて、課題の発見や仮説の設定、実験・調査といった一連の課題解決・価値創造に向けたプロセスなどを学ぶ探究的な活動は、新しい時代に求められる重要な力につながるものであり、探究的な活動を通じて身につく能力・資質等を大学入試等で評価する取り組みが求められています。 探究的な活動を通じて身につく能力・資質等を大学入試で評価するいわゆる探究型選抜は国公立大学や私立大学の一部で導入されています。先述しました大学入学者選抜における好事例と一部重複しますが、現在、次のような探究型選抜が実施されています。
京都大学「特色入試」 ~高大接続を重視した多面的・ 総合的な評価による独自の入試~
東京大学とともに最難関大学である京都大学特色入試(総合型選抜・学校推薦型選抜)は、能力、学ぶ意欲、志を多面的・総合的に評価する独自の選抜方式です。志願者のこれまでの学びの活動等における努力のプロセスや、京都大学で学ぼうとする意欲を積極的に評価します。特色入試では、高大接続と個々の学部の教育を受ける基礎学力を重視し、①高等学校での学習における行動と成果の判定、②個々の学部におけるカリキュラムや教育コースへの適合力の判定を行い、①と②の判定を併せて、志願者について高等学校段階までに育成されている学ぶ力及び個々の学部の教育を受けるにふさわしい能力並びに志を総合的に評価して選抜します。
志望理由書・ 自己PR文の書き方
総合型選抜・学校推薦型選抜では必ず志望理由書・自己PR文が課されます。志望理由書や自己PR文によって受験生の志望意欲の高さなどが評価されます。 (1)志望理由書・自己PR文を書くための準備 志望理由書・自己PR文を書く前に、「自分」「学びたいこと」「志望校(アドミッション・ポリシー、カリキュラム・ポリシー、ディプロマ・ポリシー)」「将来」について考察しましょう。
(2)志望理由書に書く内容
①アドミッション・ポリシーとそれに自分が適していること(前提)。②高校時代の学習や研究(総合的な探究の時間や理数探究等)について(過去・現在)。③高校時代の特別活動について(過去・現在)。④高校時代の留学・海外研修、ボランティア活動、起業活動について(過去・現在)。⑤読書体験や社会課題への興味・関心(過去・現在)。⑥資格取得・検定・受賞記録(過去)。⑦大学で何を学びたいのか(近未来)。⑧なぜその大学を志望するのか(近未来)。⑨将来どんな仕事をしたいのか(遠未来)。⑩自己実現と社会貢献、情熱・熱意。
(3)自己PR文に書く内容 ①高校までの経験(過去・現在)。②大学で何を学びたいのか(近未来)。③大学卒業後の展望(遠未来)。④自分のセールスポイントを見つけ、それを一つか二つに絞って具体的なエピソードや将来展望を書き加える。
面接試験に向けて
面接試験で測られる受験生の資質・能力は、コミュニケーション能力です。コミュニケーション(communication)の語源は、ラテン語の「communis(コミュニス)」であり、「共有・共通」という意味です。お互いの情報や感情を共有することによって、共通の感情や思いを持つ営みということになります。面接試験は暗記力を測るものではありません。想定問答集を作成することは決して悪いことではありませんが、面接官の問いに対して、機械的にマニュアル通りの答えを発することは面接試験の目的ではありません。受験生は面接官との対話を重視し、初対面である面接官の頭や心の中で話すことを心がけてください。
1)面接試験での良い話し方と何を語るのか
①具体的にわかりやすく。②ゆっくり、はっきりと。③真剣に、好感を持たれるように。④質問をよく聞き、意見には理由を添える。⑤志望理由は未来を語る。⑥自己PRは過去を語る。⑦自分の将来像を語る。⑧学問に対する姿勢を語る。⑨人生の設計図(ライフデザイン)を描く。⑩面接とは面接官との対話です。初対面の面接官に対してわかりやすく話す。
(2)面接試験のマナーと心得
①ドアを開けて「失礼します」とひとこと言ってから入室し、ドアの方を向いてドアをゆっくり閉めます。②椅子の左側に立ち、受験番号・高校名・氏名を言ってから「よろしくお願いします」と言ってから礼をします。③面接官の方をきちんと向き、笑顔で対話しましょう。④ジェスチャーはあまり大きくならないようにしましょう。⑤面接が終わると、静かに椅子から立ちあがり、「ありがとうございました」と言って礼をして、ゆっくりとドアの方に歩きます。⑥ドアのところで面接官の方に向き直り、もう一度礼をしてから外に出ます。部屋を出たらドアの方を向いて静かにドアを閉めます。⑦服装は制服です。制服がない場合はスーツを着用しましょう。⑧髪は、パーマや染色・脱色(茶髪)などはやめましょう。⑨ピアス・イアリング、指輪、ネックレス、マニュキュアなども避けてください。
《参考》総合型選抜・学校推薦型選抜・探究型選抜に関する参考文献・推薦図書
●森弘達『特化型小論文チャレンジノート』 (第一学習社)※学校専用商品
●森弘達『FUTURE』 Vol・3 STEAM編(SRJ)
●岡本尚也『課題研究メソッド』 Second Edition(啓林館)
●神尾雄一郎『どんなテーマでもスラスラ書ける 3ステップ小論文』(Gakken)
●内閣府科学技術・イノベーション推進事務局 『探究力評価への挑戦』(文部科学省)
●螢雪時代7月臨時増刊『大学入試推薦&総合型合 格対策ガイド』(旺文社)
●木村誠『ワンランク上の大学攻略法 ~新課程入試の先取り最新情報~』(朝日新書)
森 弘達(もり ひろたつ)先生プロフィール
現在、学校法人大妻学院大妻中学高等学校進路指導部長・探究科主任(兼務)、国立大学法人東京学芸大学大学院教育学研究科(教職大学院)、学校法人電子学園情報経営イノベーション専門職大学客員教授、国分寺市介護保険運営協議会委員(国分寺市長委嘱)、国分寺市高齢者保健福祉計画・介護保険事業計画評価等検討委員会委員(国分寺市長委嘱)、国際バカロレアディプロマプログラム(IBDP)アドミニストレーター、国分寺マンション管理組合法人副理事長(日本一コミュニティ度の高い100年マンション構想を推進)。東京と沖縄を拠点に教育活動、探究や医学部受験に関する全国講演会やオンライン講演会、教員研修会を展開。大妻中学高等学校では主幹として、学則改定、併設型中高一貫校への移行、カリキュラム改革、STEAM探究講座・医療系探究講座・起業探究講座の設計・運営、コロナ対策などに取り組み、今年度から進路指導部長・探究科主任を兼務し、新時代の進路指導体制の構築、総合的な探究の時間の設計・運営、医療系探究講座・起業探究講座の設計・運営、デザイン思考・システム思考・ジグソー法による主体的・対話的・協働的な学び等の先進的な授業の開発・導入に取り組んでいる。著書に『ハイスコア!共通テスト攻略現代社会』(Z会)、『特化型小論文チャレンジノート志望理由・自己PR編』(第一学習社)、探究教材『FUTURE』volume.1・2・小学生版・STEAM探究教材『FUTURE』volume.3(SRJ)など多数。コロナ禍でも自ら学びを進め、学校図書館司書教諭の免許取得、学校法人東京音楽大学指揮研修講座修了。国立大学法人東京学芸大学大学院では学校経営、学校組織マネジメント、学習する組織、システム思考等を研究している。2022年度から公立大学法人名桜大学において、高大接続事業研修会及び大学教員対象の「大学教員の教育能力を高めるための実践方法」であるFD(ファカルティ・ディベロップメント)研修会の講師を務める。
学校法人昭和薬科大学附属高等学校・中学校教諭・進路指導部主任・生徒指導部主任・高校3学年主任(高校3年担任として12回卒業生を送り出した)・吹奏楽部顧問・ディベート部顧問、学校法人武蔵野大学附属千代田高等学院副校長、沖縄県沖縄次世代委員会委員(沖縄県知事委嘱)、浦添市未来まちづくり委員会委員(浦添市長委嘱)、浦添市てだこ市民大学運営委員・講師(浦添市長委嘱)、浦添市まちづくり生涯学習推進協議会委員(浦添市長委嘱)、税務大学校沖縄研修支所講師、一般財団法人日本私学教育研究所研究員、大前研一創設特定非営利活動法人政策学校一新塾講師を歴任。