連載:森 弘達先生と読み解く 教育改革最前線⑩
日本のトップ大学の改革と魅力、 合格する学習方法と学習計画
~日本のトップ大学について知り、高い目標を立て、チャレンジしよう~
東京工業大学と東京医科歯科大学が統合に向けて2022年10月に基本合意書を締結し、2023年1月に新大学の名称を東京科学大学とすることを発表し、2024年度中を目途として、できる限り早期の統合を目指しています。イギリスの教育専門誌『タイムズ・ハイヤー・エデュケーション』(THE)の「世界大学ランキング」における日本のトップ大学のランクの低下に歯止めがかからない中、新大学は世界のトップ大学を目指すものとして期待されています。今回は、29年にわたり、昭和薬科大学附属高等学校・中学校、大妻中学高等学校、Z会映像コース等で大学受験指導に携わり、東京大学100名以上、医学部800名以上をはじめ難関国立10大学、難関私立大学等の日本のトップ大学の合格者、オックスフォード大学、ロンドン大学、シンガポール国立大学、北京大学、台湾大学等の海外のトップ大学の合格者を数多く指導した経験を持ち、国際バカロレアディプロマプログラム(IBDP)アドミニストレーターでもあり、海外や日本のトップ大学への進学指導、難関大学進学プロジェクトの企画・運営・監修を行っている森弘達先生が日本のトップ大学の改革と魅力について読み解き、合格する学習方法と学習計画をアドバイスします。
日本のトップ大学の改革と魅力
日本のトップ大学は、海外のトップ大学との競争の中で改革を推進しています。特に、文部科学省では、海外トップレベルの大学との交流・連携を実現、加速するための新たな取り組みや、人事・教務システムの改革、学生のグローバル対応力育成のための体制強化など、国際化を徹底して進める大学を重点支援するため、2014年からスーパーグローバル大学創成支援事業を実施しています。 東京大学、京都大学、東京工業大学・東京医科歯科大学、一橋大学、早稲田大学、慶應義塾大学といった日本のトップ大学の魅力は数多くあります。まず、難関の入試を突破してきた学力の高い学生が集まっていて、知的好奇心が旺盛な仲間に出会えること。そして、社会からの注目度が高いことが、自己を高めようというモチベーションのアップにつながります。当然、教育への配慮が行き届いており、教授陣の研究レベルが高く、常勤教員の数も多く、予算・施設・設備も充実しています。こうした日本のトップ大学のレベルの高さは、卒業生がさまざまな分野の第一線で活躍している事実が証明しています。
さらに、日本のトップ大学は海外のトップ大学を意識していて、世界に通用する人材の育成を図っています。もちろん、海外のトップ大学や大学院への留学制度や進学制度が充実していますし、海外のトップ大学からの留学生が多く、グローバルな活動も可能です。
東京大学、京都大学、東京工業大学・東京医科歯科大学、一橋大学、早稲田大学、慶應義塾大学の近年の大学改革等のトピックは以下の通りです。
(1)東京大学
2021年9月にU Tokyo Compass「多様性の海へ : 対話が創造する未来」を公表しました。 基盤となる「経営力の確立」、そして「知をきわめる」「人をはぐくむ」「場をつくる」という3つの視点から定めた20の目標のもと、具体的な行動計画が進展しています。また、2022年11月に、今後6年間で女性の教授や准教授を約300人採用すると発表しました。2027年度までに教員の女性比率を25%に引き上げる方針です。
(2)京都大学
2022年に創立125周年を迎え、交換留学制度の拡充、海外大学とのスポーツ・文化交流の実施、給付型奨学金制度の創設、若手研究者研究費支援の学内ファンドの充実、若手研究者登用の拡充、産官学連携「京大モデル」の構築、ベンチャー育成の学内ファンドの拡充、アントレプレナー教育支援などの記念事業を進めています。
(3)東京工業大学・ 東京医科歯科大学
2022年4月にソニーグループとの共同講座である未来デバイス・システム共同研究講座を設置し、デバイス・システム領域において、持続可能な社会に貢献する研究開発と、人材の育成・強化を目指します。また、大学院学生を対象とした専門科目を工学院電気電子系電気電子コースに開講しました。さらに、東京工業大学と東京医科歯科大学が統合に向けて2022年10月に基本合意書を締結し、2023年1月に新大学の名称を東京科学大学とすることを発表し、2024年度中を目途として、できる限り早期の統合を目指しています。
(4)一橋大学
2022年8月にソーシャル・データサイエンス学部及びソーシャル・データサイエンス研究科(修士課程)の設置が認可され、2023年4月に開設します。社会における情報技術の進展やデジタル・トランスフォーメーションに貢献できる人材の輩出を目的としています。博士課程は2025年の開設を構想しています。
(5)早稲田大学
2021年10月に国際文学館(村上春樹ライブラリー)を開館しました。また、2022年1月に「WASEDA VISION 150 AND BEYOND」を発表し、研究、教育環境を整備し、世界から認められる大学を目指します。さらに、2022年4月に早稲田大学の名を冠した早稲田大学ベンチャーズ株式会社(WUV)を設立しました。
(6)慶應義塾大学
2021年4月に湘南藤沢国際学生寮、高輪国際学生寮を新設しました。2022年度入試で総合政策学部、環境情報学部「アドミッションズ・オフィスによる自由応募入試」を実施しました。これまで夏AO・秋 AOと2回に分けて行ってきたAO入試をまとめて1回の入試として実施しました。2022年4月に経済学部ではデータサイエンスに関する「DEEP」、フィールドリサーチに関する「FACTS」の2つの履修プログラムを新設しました。2023年4月に統合を目指していた東京歯科大学とは、スケジュールに目途を設けずに協議を継続することになりました。
日本のトップ大学に 合格する受験生像
私は29年にわたり、大学受験指導を行ってきました。その中でトップ大学に合格した生徒の多くは、知識・技能を着実に身に付け、それを活用して考えることができ、高い思考力・判断力・表現力を持ち、主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度を有する者でした。また、トップ大学に合格する生徒に多くみられる共通点を挙げておきます。 ①自分の勉強法を確立したうえで、自ら学習計画を立て、それを実行できる。②授業や課外活動をおろそかにしないで、充実した学校生活を送っている。③受験勉強を理由にして家族、先生、友人などとの人付き合いを極端に減らすことなく、人間関係を大切にする。④授業や模試の復習など、その日のうちにやるべきことは必ずその日にやる。⑤短い細切れの時間(スキマ時間)を有効に活用することができる。⑥受験勉強に直結しなくても、書籍や新聞を読むなど、さまざまなことに関心をもって知的刺激を求める。⑦模試の判定に一喜一憂せずに、あくまで志望校の合格を目標に据えて努力する。⑧トップ大学は二次試験や個別試験が重視されるが、第一関門となる大学入学共通テストの対策を怠らない。⑨各教科・科目の勉強時間や勉強量のバランスがとれる。⑩適度に運動し、音楽を鑑賞するなどストレスを溜め込まない、などです。
日本のトップ大学に合格する 学習方法と学習計画
日本のトップ大学を目指す場合、どのような方法と計画で学習を進めればいいでしょうか。年間の学習計画を立てる際に重要なことは、まず大学の過去問を見て、出題されている分野・レベル・形式・解答時間・方法などを把握することです。そのうえで、とにかく8月までに全教科・科目の基礎・基本事項を完全にマスターしておくことが重要です。目標は、教科書の内容を完全に理解することです。最初から難しい問題を解く必要はありません。基礎・基本を繰り返すことが9月以降の応用力の伸びにつながります。
9月以降は、大学別過去問題集や大学別実践問題集、通信添削教材などを利用して二次試験・個別試験の対策をスタートします。実戦対策としては、夏と秋に実施される大学別模試を受験することをお薦めします。問題を解答する手順、時間配分、解答用紙の使い方等、各大学の入試本番をシュミレーションすることができます。
また、共通テストの直前対策もしっかりと行ってください。共通テストは、課題文の分量や資料が増えていることから、より高い情報処理能力が求められます。それに加えて、思考力・判断力を問う出題が増えていることからも解答手順、時間配分にも注意が必要です。本番までに最低でも共通テストの過去問5か年分(センター試験も含めて)と予想問題2回分は、時間を計って練習しておく必要があります。
共通テスト後は、最後まで気を抜くことなく、二次試験・個別試験に向けて解答力アップを図ってください。特に、トップ大学の出題形式は、記述・論述であり、単なる知識・技能だけでなく、思考力・判断力・表現力が求められます。大学別過去問題集や大学別実践問題集、Z会等の通信添削教材を活用すること、学校や塾・予備校の先生に添削指導をお願いするなどして、記述・論述の答案作成力を高めてください。全問完答を目指す必要はありません。原則として、総合点で合格点に達することを目標に、各教科・科目でそれぞれ何点取るべきかを割り振り、二次試験・個別試験に向けた勉強時間を効率よく配分することが大切です。
トップ大学とはいっても、大学別模試の結果や日頃の学習から冷静に自己分析を行い、それをもとにしっかりと学習計画を立て、着実に実行することによって、誰にでも合格するチャンスはあり、合格可能性を高めることができます。みなさんもぜひトップ大学に挑戦してほしいと思います。
世界のトップ大学への 進学指導と新たな取り組み
勤務校である大妻中学高等学校において2022年度から東京大学、東京工業大学、早稲田大学、慶應義塾大学、医学部医学科への生徒の進路意欲の喚起や進学指導を目的に難関大学進学プロジェクトを開始し、高大接続や高大連携も推進しています。 また、『ジュクタン』×ジュンク堂書店那覇店プレゼンツの「森弘達先生教育『考』演会」においても、私の教え子であるオックスフォード大学 大学院の比嘉華奈子さんや沖縄科学技術大学院大学(OIST)博士の大田祥子さんをゲストに招き、世界のトップ大学や大学院の教育についてお話させて頂きました。
大妻中学高等学校 難関大学進学プロジェクト(東京大学、東京工業大学、 早稲田大学、慶應義塾大学、医学部医学科) テーマと登壇者(2022年度)
企画・運営・監修 森弘達(大妻中学高等学校進路指導部長・探究科主任)
①「東京大学で学ぶ意義、考えるとはどういうことか、哲学対話」
梶谷真司先生(東京大学大学院総合文化研究科教授、哲学者)
②「人とロボットの運動科学」(大妻特別講座との共催)
山本江先生(東京大学大学院情報理工学系研究科准教授)
③「イノベーションの作り方」(大妻特別講座との共催)
玉城絵美先生(琉球大学工学部知能情報コース教授、東京大学総長賞受賞)
④「東京大学研究室訪問(1)水島研究室」「東京大学研究室訪問(2)山本研究室」
水島昇先生(東京大学大学院医学系研究科教授)、山本江先生
⑤「東大入試を斬る(東京大学入試研究会)」
佐々木菜緒子先生(Z会進学教室首都圏大学受験事業本部長)
⑥「キミも東大に手が届く!難関大学に合格する方法」
森弘達(大妻中学高等学校進路指導部長・探究科主任)
⑦「ドキドキしながらワクワク研究しよう!」「東京工業大学の紹介」
高松邦彦先生(東京工業大学企画本部マネジメント教授)、松本清先生(同准教授)
⑧「東工大入試を斬る(東京工業大学入試研究会)」
佐々木菜緒子先生
⑨「正解のない問題に挑む力を育む学習環境をデザインする」
尾澤重知先生(早稲田大学人間科学学術院・人間科学部教授)
⑩「早稲田大学入試問題分析(英語)」
廣川正敏先生(Z会進学教室首都圏大学受験部講師)
⑪「慶應義塾大学を志すみなさんへ~慶應義塾大学での学び~」
河添健先生(元慶應義塾大学総合政策学部学部長・教授)
⑫「早大・慶大入試を斬る(慶應義塾大学・早稲田大学入試研究会)」
佐々木菜緒子先生
⑬「慶應義塾大学小論文対策講座」「慶應義塾大学総合政策学部・環境情報学部小論文対策講座」
金子秀一先生(Z会進学教室首都圏大学受験部講師)、
瀬戸裕一郎先生(株式会社Z会ソリューションズ事業開発室長)、森弘達
⑭「感染症社会・高齢社会・地域社会・グローバル社会を担う医療人材の育成」
「医学部入試を斬る(医学部入試研究会)」 森弘達
⑮「医学部合格に必要な書く力・話す力」
神尾雄一郎先生(NPO法人ロジニケーションジャパン理事長)
参考》トップ大学受験に関する参考文献・推薦図書
●「世界大学ランキング2023」『タイムズ・ハイヤー・エデュケーション』(THE)
●「本当に強い大学2022」『週刊東洋経済臨時増刊』(東洋経済新報社)
●『東大入門2022』『京大入門2022』(Z会)
●『2022東京大学・京都大学A to Z』 『2022/2023早稲田大学・慶應義塾大学A to Z』『2022医学部A to Z』(代々木ゼミナール) ●『東大・慶應義塾・早稲田 入試分析2022』(Benesseお茶の水ゼミナール)
●木村達哉『「東大に入る子」が実践する勉強の真実』(KADOKAWA)
●木村誠『ワンランク上の大学攻略法~新課程入試の先取り最新情報~』(朝日新書)
●森弘達「超難関大学に合格する方法」『螢雪時代』(旺文社)
森 弘達(もり ひろたつ)先生プロフィール
現在、学校法人大妻学院大妻中学高等学校進路指導部長・探究科主任(兼務)、国立大学法人東京学芸大学大学院教育学研究科(教職大学院)、学校法人電子学園情報経営イノベーション専門職大学客員教授、国分寺市介護保険運営協議会委員(国分寺市長委嘱)、国分寺市高齢者保健福祉計画・介護保険事業計画評価等検討委員会委員(国分寺市長委嘱)、国際バカロレアディプロマプログラム(IBDP)アドミニストレーター、国分寺マンション管理組合法人副理事長(日本一コミュニティ度の高い100年マンション構想を推進)。東京と沖縄を拠点に教育活動、探究や医学部受験に関する全国講演会やオンライン講演会、教員研修会を展開。大妻中学高等学校では主幹として、学則改定、併設型中高一貫校への移行、カリキュラム改革、STEAM探究講座・医療系探究講座・起業探究講座の設計・運営、コロナ対策などに取り組み、今年度から進路指導部長・探究科主任を兼務し、新時代の進路指導体制の構築、総合的な探究の時間の設計・運営、医療系探究講座・起業探究講座の設計・運営、デザイン思考・システム思考・ジグソー法による主体的・対話的・協働的な学び等の先進的な授業の開発・導入に取り組んでいる。著書に『ハイスコア!共通テスト攻略現代社会』(Z会)、『特化型小論文チャレンジノート志望理由・自己PR編』(第一学習社)、探究教材『FUTURE』volume.1・2・小学生版・STEAM探究教材『FUTURE』volume.3(SRJ)など多数。コロナ禍でも自ら学びを進め、学校図書館司書教諭の免許取得、学校法人東京音楽大学指揮研修講座修了。国立大学法人東京学芸大学大学院では学校経営、学校組織マネジメント、学習する組織、システム思考等を研究している。2022年度から公立大学法人名桜大学において、高大接続事業研修会及び大学教員対象の「大学教員の教育能力を高めるための実践方法」であるFD(ファカルティ・ディベロップメント)研修会の講師を務める。
学校法人昭和薬科大学附属高等学校・中学校教諭・進路指導部主任・生徒指導部主任・高校3学年主任(高校3年担任として12回卒業生を送り出した)・吹奏楽部顧問・ディベート部顧問、学校法人武蔵野大学附属千代田高等学院副校長、沖縄県沖縄次世代委員会委員(沖縄県知事委嘱)、浦添市未来まちづくり委員会委員(浦添市長委嘱)、浦添市てだこ市民大学運営委員・講師(浦添市長委嘱)、浦添市まちづくり生涯学習推進協議会委員(浦添市長委嘱)、税務大学校沖縄研修支所講師、一般財団法人日本私学教育研究所研究員、大前研一創設特定非営利活動法人政策学校一新塾講師を歴任。