進路指導のエキスパート 森 弘達 先生による
「一からわかる2020年大学入試改革~備えあれば憂いなし~」

大学入試改革の混乱と困惑

現在の高校2年生が受験することになる2020年度から始まる大学入学共通テストで活用予定だった英語の民間試験について、2020年度からの導入が見送られ、2024年度の実施が目指されることになる。混乱と困惑が広がっている。また、大学入学共通テストでは国語や数学の一部で記述式が導入されることが目玉とされるが、公平な採点ができるのか、思考力・判断力・表現力が測れるのかなど課題や不安も多い。2020年度に実施が迫った大学入試改革について、生徒や保護者の皆さんに一からわかりやすく解説しましょう。

なぜ、いま教育改革、大学入試改革が必要なのか

教育改革、大学入試改革が必要な理由は、国際社会や日本社会の社会環境の変化に学校教育が対応しきれていないことが大きい。AIの進展グローバル化少子高齢化などの社会環境の変化は、これまで私たちが経験したことのないものであり、正解のない社会である。私たちは、予測できない社会で様々な課題を発見し、多様な人々と協働して課題を解決することが求められる。しかし、これまでの教育は、正解ばかりを求めるものであり、正解のない社会に対応できない。この問題を解決するのが高校教育改革と大学教育改革である。しかし、現在の大学入試制度の下で高校教育は主として大学受験教育になってしまっていて高校教育改革がなかなか進まない。そこで大学入試改革を行い、これにより高校教育改革を一気に進めようというものである。

大学教育改革の柱は、3つのポリシー、すなわちアドミッション・ポリシー(入口)、カリキュラム・ポリシー(学習内容)、ディプロマ・ポリシー(出口)の明確化と、大学と社会との連携強化である。

高校教育改革の柱は、学力の3要素の育成高校教育の内容の見直し学習方法や指導内容の改善である。新たな時代に必要となる資質・能力の育成として学力の3要素の育成が求められる。学力の3要素とは、(1)知識・技能、(2)思考力・判断力・表現力、(3)主体性、多様性、協働性である。

大学入試改革の柱は、大学入学共通テスト英語の資格・検定試験多面的・総合的評価入試などの新しい入試の導入や拡大である。大学入試センター試験を廃止して新たに導入する大学入学共通テストでは、記述式問題の導入、思考力・判断力・表現力を測る問題の出題が予定されている。英語の資格・検定試験の利用は、従来の「読む」「聞く」に加え「書く」「話す」力を測定することを目的にしているが、前述の通り2020年度実施が見送られた。多面的・総合的評価入試は、高校年間の学習活動や特別活動の履歴や資格などを評価対象にするものである。

高大接続改革という名の大学入試改革

高校教育と大学教育をつなぐもの、すなわち接続、それは大学入試であり、これを改革するので高大接続改革という名の大学入試改革が行われる。広い意味では、高校教育における大学教育の導入、例えば、勤務校である武蔵野大学附属千代田高等学院で実際に行っているものでもあるが、高校生が大学の授業を履修し単位取得したり、大学の先生の出前授業を受講したりすることである。ただし、2020年大学入試改革で高大接続改革という言葉が使われる場合には大学入試改革のことであり、具体的には、大学入学共通テストの導入、英語の資格・検定試験の導入、多面的・総合的評価入試の導入や拡大である。

教育改革、大学入試改革のスケジュール

 2019年度の学年で説明すると、高校3年生は大学入試センター試験の最終学年である。国公立大学入試や私立大学入試では安全志向になると予想できる。高校2年生は大学入学共通テストの最初の学年である。大学入学共通テストは試行テストの問題のみで過去問題がないので受験生にとっては対策がとりづらい。高校1年生は新学習指導要領(新課程)の移行措置によって探究的な学びが広がる学年である。中学2年生は現行の学習指導要領(現行課程)の大学入学共通テストの最終学年である。国公立大学入試や私立大学入試では安全志向になると予想できる。中学1年生は新学習指導要領(新課程)の大学入学共通テストの最初の学年であり、国語や数学だけでなく理科や地歴公民においても記述式が導入され、延期されることになった英語の資格・検定試験が導入される予定である。

大学入学共通テストとは

2020年度に大学入試センター試験が廃止され、大学入学共通テストが実施される。大学入学共通テストの目的は、大学教育を受けるために必要な能力の測定であり、思考力・判断力・表現力を中心に評価される。対象者は大学入学を希望するものであり、高校生だけでなく過卒生や社会人も受験が可能である。出題教科科目は、現行の学習指導要領では教科型で出題され、新学習指導要領(新課程)では出題教科・科目を簡素化も含めて見直すことになっている。出題形態は、マークシート式問題に加えて、国語総合(古文・漢文を除く)と数学Ⅰは記述式問題が導入される。新学習指導要領の下で初めて行われる2024年度からは地歴公民や理科でも記述式の導入が検討されている。実施回数は年1回実施であり、複数回実施は引き続き検討される。実施時期は1月中旬の2日間であり、2020年度は2021年1月16日(土)と17日(日)に実施される。マークシート式問題と記述式問題は同一日程で実施される。結果については現行の大学入試センター試験よりも詳細な情報が提供され、設問・領域・分野ごとの成績、全受験者の中での成績を表す段階別表示国語の記述式問題は5段階別で表示される。テストの実施主体は、大学入試センターであり、大学入試センターが記述式問題も含めて作問、採点、その他を一括して処理する。採点には民間事業者を有効活用することになっているが、反対もある。

多面的・総合的評価による大学入試の拡大

国立大学は推薦入試、AО入試の募集人員を拡大する。国立大学は推薦入試、AО入試を30%まで拡大する目標を示している。東京大学、京都大学、大阪大学などの難関大学でも推薦入試、AО入試を拡大する。一般入試を一般選抜、推薦入試を学校推薦選抜、AО入試を総合型選抜に名称を変更し、すべての入試方式で学力の3要素がより重視される。一般入試でも調査書や志望理由書などを活用し、ポートフォリオの活用が広がる。推薦入試、AО入試であっても大学入学共通テストや小論文など何らかの試験での学力把握が必須となる。これまで以上に調査書や志望理由書が積極的に活用される。

国立大学におけるAО・推薦入試の拡大

2015年9月の一般社団法人国立大学協会「国立大学の将来ビジョンに関するアクションプラン」で推薦入試、AО入試、国際バカロレア入試等の拡大(入学定員の30%を目標)個別入試における面接調査書の活用等(準備から実施へ)が公表され、それ以降、国立大学の推薦入試、AО入試は着実に拡大している。推薦入試、AО入試の入学定員の30%という目標達成に向けて、今後急速に拡大していく可能性がある。

調査書が変わる

調査書は現行の両面1枚制限を撤廃し、「指導上参考となる諸事項」の記載欄を拡充する。

以下の点が新たに加わる。これまでは、高校3年生になってからクラス担任の先生方が調査書の準備を始めていたが、今後は、高校1年生から生徒の様子を記録・蓄積し続け、その履歴を活用することによって多面的・具体的に生徒の特徴を調査書に記載することになる。

(1)各教科・科目及び総合的な学習の時間の学習における特徴等に加えて、各教科・科目等に関する学習状況の様子や特徴(積極性)などを具体的に

(2)行動の特徴、特技等に加えて、(1)以外の学校内外における活動の状況や特徴(積極性)等

(3)部活動、ボランティア活動等に加えて、部活動やボランティア活動等の具体的な取組内容、実施期間、その活動における特徴等

教育改革、大学入試改革を踏まえた大学受験対策

国公立大学は一般選抜(一般入試)、学校推薦型選抜(推薦入試)、総合型選抜(AО入試)のほほ全てで大学入学共通テストが必須となるので、大学入学共通テストの対策が必要となる。私立大学は一般選抜、学校推薦型選抜、総合型選抜の一部だけが大学入学共通テストを利用するので、大学入学共通テストを受験せずに出願できる。受験方式によって対策が異なるので注意が必要である。

また、総合型選抜は9月1日以降出願で11月1日以降発表、学校推薦型選抜が11月1日以降出願で12月1日以降発表となり、いずれも合格発表時期が1か月後ろ倒しに大学入試のスケジュールが変更になるため、不合格だった際に一般選抜への切り替えが重要になる。総合型選抜や学校推薦型選抜が第一志望の場合であっても一般選抜の対策を並行して進めておくことが得策である。

さらに、最も大切なことは、これまでの大学入試とは異なり、思考力、判断力、表現力を評価する問題が出題されるので、高校1年、高校2年の早い段階からの対策が必要になる。大学入学共通テストの試行テストは過去2回実施されているので問題にチャレンジしておこう。

生徒たちへのメッセージ

「せっせと勉強して世の中に負けるな」
「現代社会に対して問題意識を持て」
「そして、夢はるかに」

森 弘達先生(もり ひろたつ)先生

学校法人大妻学院大妻中学高等学校主幹
国立大学法人東京学芸大学大学院教育学研究科(教職大学院)・学校法人電子学園情報経営イノベーション専門職大学客員教授
学校法人東京音楽大学指揮研修講座研修生・東京都国分寺市介護保険運営協議会委員(国分寺市長委嘱)

国際バカロレアディプロマプログラム(IBDP)アドミニストレーター。学校法人昭和薬科大学附属高等学校・中学校教諭・進路指導部主任・生徒指導部主任・高校3学年主任・吹奏楽部顧問・ディベート部顧問、学校法人武蔵野大学附属千代田高等学院副校長、一般財団法人日本私学教育研究所研究員を歴任。著書に『ハイスコア!共通テスト攻略現代社会』(Z会)、『特化型小論文チャレンジノート志望理由・自己PR編』(第一学習社)、探究教材『FUTURE』volume.1・2(中高生版)・小学生版(SRJ)などがある。2021年夏にSTEAM探究教材『FUTURE』volume.3(SRJ)を発行予定。