第5回 星型のまゆの正体は〜沖縄の海と山の推しメン紹介〜
2016年の梅雨ごろ、当時技術補佐員としてバイトしていた医学系研究室に出勤する途中、ヘクソカズラの絡んだ駐車場のフェンスで奇妙なものを見つけました。それは5ミリもないくらいのウジ虫型の幼虫がくす玉のように星型にたくさん集まって、糸でぶら下がっているというものでした。幼虫は糸を吐いている真っ最中のようです。
集団で蛹になるホシガタハラボソコマユバチの幼虫
ここまで観察してちょっと「ヘンだな」と思いました。糸を吐いているということは、これからマユをつくってサナギになるところでしょう。でもこれからサナギになろうという幼虫が固まって一緒にいるというのは、葉を食べて育つような昆虫では普通起こらないことです。卵からかえった直後は集団ですごす種類もありますが、その後は餌を求めてバラバラに散りますし、大きくなる速度だってサナギになるタイミングだってバラバラ。昆虫の兄弟姉妹は孤独なのです。 ただし例外はあって、幼虫時代を他の生き物の体内に寄生して過ごすコマユバチなどの寄生蜂の幼虫は寄主の体の中でみんな一緒に大きくなります。そしてある日、寄主の体を食い破って出てきていっせいにサナギ(マユ)になるのです。このマユも何かの寄生蜂のものだろうなと予想していました。でもこんなふうに寄主から離れたところにぶら下がって、きれいな星型に並んでマユをつくる種類は聞いたことがありませんでした。
ホシガタハラボソコマユバチの羽化後のマユ
ヘクソカズラの葉と花
5年後の2021年の秋、この謎が解けることになります。あの星型のマユを作るハチが「ホシガタハラボソコマユバチ」という名前で新種記載されたのです。論文を書いた研究者の一人に写真をお見せしたら「間違いないです!」とのことでした。ホシホウジャクというガの幼虫に寄生するそうなのですが、ホシホウジャクの幼虫はヘクソカズラの葉を食べるので、あのフェ ンスで見つけたのも納得です。離れた場所に星型のマユをつくる理由としては、天敵や他の寄生蜂(寄生蜂に寄生する寄生蜂がいるのです…!)から身を隠すためではないかと考えられているそうです。
クソカズラは街中でもよく生えている植物で、ホシガタハラボソコマユバチのマユもその後、街中でもよく見つかっています。名前のついていない昆虫がこんな身近にもひそんでいるというのを、身をもって体験した出来事でした。
Miyazaki Yu
生き物とそのウンチクが大好きなヒゲのガイド。 「キュリオス沖縄」は、沖縄県内の海や森などのフィールドでネイチャーツアーのサービスを提供しています。キュリオス沖縄のツアーは、自然の中を歩きながら生き物や環境を観察したり、その形や生態について考えたりする「インドアなアウトドア」スタイル。ガイドは基本的に専門過程で学習・研究経験のある「生き物好き」が務めます。このほか、県内のさまざまな自然・生物多様性に関する普及啓発などの事業をお手伝いさせていただいています。
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