〜札幌日本大学中学校・高等学校「SNUアカデミック・コモンズ」開設に向けて〜

今回は、30年にわたり、昭和薬科大学附属高等学校・中学校、武蔵野大学附属千代田高等学院、大妻中学高等学校、Z会映像コース、静岡県のトップ公立・私立高等学校の難関大学進路指導支援・医学部受験指導等で大学受験指導や探究教育、学校改革に携わり、東大合格者100名以上、医学部合格者1000名以上、海外トップ大学合格者を指導、東京学芸大学大学院教育学研究科(教職大学院)で学校経営、学校組織マネジメント、「学習する組織」を研究、2025年度から札幌日本大学中学校・高等学校副校長及び明星中学校・高等学校特別顧問として学校経営や学校改革、先端教育をリードする森弘達先生が長年、実践と研究を行ってきた「学習する組織」と学習習慣の確立・学習指導・学習支援について読み解きます。森先生が副校長として学校改革を進めている札幌日本大学中学校・高等学校は、SSH、SGH、国際バカロレアをはじめとする理数教育やグローバル教育を推進し、2026年度からは新たに「東大・医進・サイエンスプログラム」「SNUアカデミック・コモンズ」を開講することが決まり、受験生・保護者・教育界からその教育内容に期待と関心が高まっています。。

「学習する組織」を活用した教育の転換

教育改革の議論において、近年あらためて注目されている概念が「学習する組織」です。この概念は、米国の経営学者ピーター・センゲが提唱した組織論であり、著書『学習する組織』において体系化されました。センゲは、組織が持続的に成長するためには、構成員一人ひとりが主体的に学び、その学びが組織全体に循環する仕組みが必要であると指摘しました。組織は固定された構造ではなく、学習によって変化し続ける存在であるという視点です。この考え方を学校教育に適用すると、学校は単なる「教える場」ではなく、「生徒が学び方を学ぶ場」「教員が実践から学び続ける場」「組織全体が改善を続ける場」として再定義されます。

この視点は、従来の「知識伝達型教育」から「学習者主体の教育」への転換と深く関係しています。すなわち、「学習する組織」とは、生徒の学力向上だけでなく、学習の姿勢や習慣の形成までを組織的に支援する教育モデルです。日本の学校現場においても、学習習慣の確立や学習支援体制の整備が重要課題となる中で、この理論は極めて実践的な枠組みを提供しています。

 

「学習する組織」の5つのディシプリン

センゲは、「学習する組織」を成立させるための基本構造として「3つの柱」と「5つのディシプリン(規律)」を提示しました。これらは個人と組織の学習を結び付ける実践原理です。

(1)システム思考

教育活動を個別の出来事としてではなく、相互に関連する構造として理解する視点です。例えば、学習時間、家庭環境、学習意欲、評価方法は相互に影響し合います。生徒の成績のみを結果として扱うのではなく、学習過程全体を構造として捉えることが求められます。

(2)自己マスタリー

個人が継続的に自己成長を追求する姿勢を意味します。教育現場では、生徒が自らの目標を明確にし、自己調整学習を行う能力の育成に相当します。

(3)メンタルモデル

人が無意識に持つ前提や思い込みを問い直すことです。「勉強は苦しいもの」「成績は才能で決まる」といった固定観念を見直すことが、学習行動の変容につながります。

(4)共有ビジョン

組織の方向性を構成員全体で共有することです。学校においては、生徒・教員・保護者が学習の目標を共有することが不可欠です。

(5)チーム学習

対話と協働を通じて集団の知を高めるプロセスです。個別指導だけでなく、学び合い、振り返り、協働での問題解決が重要です。

これら5つのディシプリンは独立した要素ではなく、相互に補完し合いながら組織の学習能力を高める構造を形成します。

「学習する組織」を活用して学びの姿勢を整える

「学習する組織」を学校教育に応用する最大の意義は、生徒の「学びの姿勢」を構造的に育成できる点にあります。従来の指導は、学習内容の理解に焦点が置かれがちでした。しかし、学力形成の基盤となるのは、「学習に向かう態度」「学習の継続性」「自己調整能力」です。「学習する組織」の視点では、生徒の学びを個人の努力に委ねるのではなく、学校全体で支援します。具体的には次の3段階の支援構造が有効です。

(1)学習の可視化

学習時間、課題達成度、振り返りによる内省(リフレクション)を記録することで、生徒は自らの学習を客観視できます。これはシステム思考の教育的応用です。

(2)対話(ダイアログ)による認識の変容

教員との面談や学習相談を通じて、生徒は自身の学習行動を言語化し、メンタルモデルを更新します。

(3)共有ビジョンの形成

学校が掲げる学習方針と個人の目標を接続することで、生徒は学びの意味を理解し、内発的動機付けが促進されます。

このような枠組みは、学習支援施設や学習相談体制を中核に据えた学校運営と親和性が高く、実際に、札幌日本大学中学校・高等学校では、組織的な学習支援体制の整備を通じて、生徒の学習習慣の確立を推進しています。また、これまで、私は、個別最適化された学習支援と対話的指導を通じて、生徒の学習行動の変容を重視してきました。これらの実践は、「学習する組織」の理論と実践を接続する日本の学校教育の先進的事例と位置づけることができます。

 

「学習する組織」と学習習慣の確立

学習習慣の確立は、学力形成の基盤です。しかし、実際の教育現場では、「努力の重要性」を強調するだけでは習慣は定着しません。「学習する組織」が示唆するのは、習慣を個人の意思の問題としてではなく、構造として設計する必要性です。

ピーター・センゲは著書『学習する組織』において、行動は個人の意志だけでなく、環境や関係性によって形成されると指摘しています。教育においては、生徒の学習行動を支える仕組みを学校組織が整備することが重要です。学習習慣を確立するための基本構造は、次の三層で構成されます。

(1)目標の構造化

生徒は「何を目指すか」が明確でなければ継続的な学習行動をとることができます。ここで重要となるのが共有ビジョンです。「学校の学習目標」「学年の到達目標」「個人の学習目標」これらを階層的に接続することで、生徒は自身の努力の意味を理解できます。

(2)学習プロセスの可視化

習慣化の第二条件は、行動の可視化である。学習時間、課題達成度、理解度の記録は、自己調整学習を促進する。システム思考の観点では、結果ではなく過程のデータを扱うことが重要です。具体的には、「学習記録表」「振り返りシート」「学習ポートフォリオ」といったツールが有効です。

(3)対話による振り返りによる内省(リフレクション)の促進

習慣は外的統制ではなく、内発的動機によって持続します。生徒が自らの学習を語る機会を持つことで、メンタルモデルが更新され、主体的な学習行動が形成されます。日本の学習指導研究においても、振り返りによる内省(リフレクション)の言語化が学習成果を高めることが指摘されています。「学習する組織」は、このプロセスを学校全体の仕組みとして組み込むことを求めています。

「学習する組織」と学習成績管理とフィードバック

学習する組織の視点における成績管理は、単なる評価ではなく、学習を改善するための情報循環システムである。従来の成績管理は「結果の記録」が中心でした。ここでは次の三要素を重視します。

(1)多面的評価

学力を点数のみで測定するのではなく、「学習過程」「学習態度」「学習戦略」を含めた総合的な評価が必要となります。これは自己マスタリーであり、生徒の成長過程を可視化する試みです。

(2)フィードバックの循環

評価は一方向的な通知ではなく、対話的プロセスとして設計します。効果的なフィードバックには三つの要素があります。①現在の到達点の明確化、②目標との差の認識、③改善行動の提示、この循環が継続することで、評価は学習を促進する機能を持ちます。

(3)データに基づく個別支援

システム思考の観点では、成績は独立した結果ではなく、学習環境の反映です。学習時間、課題提出状況、理解度の推移などを統合的に分析することで、生徒の学習課題を構造的に把握できます。このような成績管理は、教員の経験則に依存しない支援体制の構築につながります。

「学習する組織」と学習支援、生徒面談、三者面談

「学習する組織」において、面談は評価の場ではなく学習を促進する対話(ダイアログ)の場です。面談の目的は、生徒の行動を指導することではなく、生徒自身が学習を理解することにあります。

(1)生徒面談の構造

効果的な面談は、次の三段階で構成されます。第一段階「事実の共有」、第二段階「認識の言語化」、第三段階「行動計画の設定」、この過程は、メンタルモデルの変革を促進します。

(2)三者面談の教育的意義

保護者を含む三者面談は、共有ビジョンを形成する重要な機会です。学校と家庭の期待が一致することで、生徒の学習環境は安定します。「学習する組織」では、組織外の関係者も学習プロセスに含まれます。家庭との連携は教育活動の拡張として位置付けられます。

(3)個別最適化された学習支援

個別支援は特別な対応ではなく、組織の基本機能として設計されるべきです。学習相談、講習、進路指導が分断されるのではなく、統合された支援体系として提供されることが望ましいです。このような支援体制は、日本の進学校においても実践が進みました。例えば、昭和薬科大学附属高等学校・中学校や大妻高等学校では、個別面談と学習管理を連動させた指導や個別指導を実践しました。私の指導実践は、面談を学習改善の中核に据える点に特徴があります。生徒の学習行動を定期的に言語化させることで、学習の主体性を育成するアプローチです。

 

「SNUアカデミック・コモンズ」の開設

「学習する組織」を学校運営の中核に据えた実装例が、札幌日本大学中学校・高等学校「SNUアカデミック・コモンズ」です。昭和薬科大学附属高等学校・中学校で指導した卒業生であり、現在、札幌日本大学中学校・高等学校校長補佐・学校改革・学習支援アドバイザーを務める室龍哉先生が経験と実績を踏まえ、開設準備を進めています。この取り組みは「誰ひとり取り残さない学習習慣の確立」を目標に掲げ、生徒の学習意欲の喚起から成績管理、学習支援、進路実現までを一体的に支える総合的システムです。

(1)学習行動を起点とする支援

「SNUアカデミック・コモンズ」の第一の特徴は、学習支援を「結果」ではなく「行動」から設計している点にあります。具体的には、「学習意欲・進路意欲の喚起」「進路目標・学力到達目標の設定」「学習状況・学習成績の把握」という三段階のプロセスにより、生徒の学習を可視化し、自己調整学習を促進します。これはセンゲの提唱する自己マスタリーとシステム思考に位置付けられます。

(2)計画・実行・改善の循環モデル

第二の特徴は、学習計画の策定・運用・改善を制度として組み込んでいる点にあります。小テスト、単元テスト、定期考査から模擬試験までを見据えた学習計画と成績管理が連動し、評価結果は次の学習行動へと接続されます。この循環は、「計画 → 実行 → 振り返り → 改善」という学習する組織の基本構造を学校レベルで実装したものです。

(3)継続的支援を可能にする学習環境

「SNUアカデミック・コモンズ」では、学習支援が特別な対応ではなく日常的機能として提供します。主な機能は次の通りです。「質問対応(放課後・長期休暇中)」「講習・学習イベントの実施」「自習室の管理運営」「生徒面談・保護者面談・三者面談の体系化」「スタディコーチ・学習支援スタッフの配置」、これらはチーム学習の枠組みの中で総合的に運用します。

(4)「学習する組織」としての到達目標

この取り組みは単なる学習支援施設ではなく、学校組織の学習能力を高める基盤として機能します。掲げた教育目標は次の四点に集約されます。①誰ひとり取り残さない学習支援と学力向上、②学習習慣の確立、③全生徒の進路目標の実現、④学習到達度の向上、この構造は、共有ビジョンの形成と組織的学習の循環を同時に実現する教育モデルといえます。

参考文献・推薦図書

・ピーター・センゲ『学習する組織』(英治出版)

・野中郁次郎『知識創造企業』(東洋経済新報社)

・中村尚義『学習する組織のつくり方』(日本経済新聞出版社)

・市川伸一『学習と教育の心理学』(岩波書店)
・佐藤学『学びの共同体』(岩波書店)

・森弘達『ジュクタン』連載「森弘達先生と読み解く教育改革最前線」(カフーブランディング)、『私教育新聞』連載・特集(モノリス・ジャパン)









森 弘達(もり ひろたつ)先生

現在、学校法人札幌日本大学学園札幌日本大学中学校・高等学校副校長・吹奏楽部スーパーバイザー、学校法人明星学苑明星中学校・高等学校特別顧問、学校法人電子学園iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授、特定非営利活動法人ロジニケーション・ジャパン副理事長、国際バカロレアディプロマプログラム(IBDP)アドミニストレーター、シュピール室内合奏団アドバイザー、沖縄探究ラボ所長・森教育研究所所長。東京、北海道、沖縄を拠点に全国で教育活動を展開。著書に『ハイスコア!共通テスト攻略現代社会』(Z会)、『特化型小論文チャレンジノート志望理由・自己PR編』(第一学習社)、探究教材『FUTURE』volume.1・2・3・小学生版(SRJ)など多数。モノリス・ジャパンのYouTube番組『教育プロデュース・チャンネル』に出演。コロナ禍でも自ら学びを進め、学校図書館司書教諭の免許取得、学校法人東京音楽大学指揮研修講座修了。国立大学法人東京学芸大学大学院では学校経営、学校組織マネジメント、学習する組織、私学経営等を研究し学位を取得。公立大学法人名桜大学、学校法人都築学園、学校法人明星学苑、学校法人札幌日本大学学園において、FD研修や教職員研修の講師を務めた。

学校法人昭和薬科大学附属高等学校・中学校教諭・進路指導部主任・生徒指導部主任・高校3学年主任・吹奏楽部顧問・ディベート部顧問、学校法人武蔵野大学附属千代田高等学院副校長、学校法人大妻学院大妻中学高等学校主幹・進路指導部長・探究科主任、Z会映像コース講師、沖縄県沖縄次世代委員会委員(沖縄県知事委嘱)、浦添市未来まちづくり委員会委員(浦添市長委嘱)、浦添市てだこ市民大学運営委員・講師(浦添市長委嘱)、浦添市まちづくり生涯学習推進協議会委員(浦添市長委嘱)、税務大学校沖縄研修支所講師、一般財団法人日本私学教育研究所研究員、大前研一創設特定非営利活動法人政策学校一新塾講師、沖縄県吹奏楽連盟理事、国分寺市介護保険運営協議会委員(国分寺市長委嘱)、国分寺市高齢者保健福祉計画・介護保険事業計画評価等検討委員会委員(国分寺市長委嘱)等を歴任。