内間早俊
SOSHUN Uchima 1982年生。
昭和薬科大学附属高等学校・中学校国語科教諭。 中学ディベート部・高校ディベート部顧問。 2000年に昭和薬科大学附属高等学校卒業後、琉球大学教育学部、琉球大学大学院教育学研究科、東北大学大学院文学研究科を経て、東北学院中高、宮城学院女子大、東北外語観光専門学校、仙台ランゲージスクールなどで国語(現代文・古典)、日本語学(
皆さんこんにちは。昭和薬科大学附属高等学校・中学校のディベート部員によるリレー連載〈ディベート部の眼〉です。 昨年に引き続きこの『ジュクタン』に紙面をいただき 執筆させていただくことになりましたので、 本稿で通算第6弾ということになります。 今年も引き続きよろしくお願い致します。
【昨年の振り返り】
年は主に高校ディベート部の部員一人ずつに執筆を依頼し、テーマ選択から紙面構成まですべての執筆責任を負ってもらいましたが、それぞれの責任を十分に果たしてくれたと感じています。 昨年の紙面を振り返ってみますと、過去にディベートの大会で扱われたテーマを掘り下げた記事が多かったように見受けられます。
昨年の紙面タイトル(学年は執筆時のもの)
第1弾「SDGsを通してZ世代を考える」(高1・中原)
第2弾「フェイクニュースと情報リテラシー」(高3・林)
第3弾「『安楽死』を考える」(高2・玉城)
第4弾「誌上ディベート『部活動の是非を問う!』」(高1・眞喜屋・照屋)
第5弾「『レジ袋有料化』論題を考える」(中3・中山・玉城)
いずれのテーマも実社会で問題となっているものですが、これらの事柄には私たち大人が意見を求められてもなかなかすぐには答えられないものも含まれているのではないでしょうか。私は中学高校の教員として、中高生が実社会の難しい課題について多角的に調べて自分の意見を形成しつつ、他者と議論というコミュニケーションを繰り返しながらより理解を深めていけることがディベートの魅力だと感じています。もちろん中高生に限らず大人であっても社会に対する思考訓練を行うことは必要だと思いますし、一人一人の中に適切に議論文化を醸成していくことがよりよい日本社会の形成、ひいてはよりよい民主主義の維持発展に寄与すると信じながらディベート活動に取り組んでいます。
【進化・深化するAI】
少し話題は変わりますが、最近よく耳にする「チャットGPT」をご存じでしょうか。 チャットGPTはOpenAIというアメリカの新興研究所が公開したAI(人工知能)で、人間が入力した質問に自然な言葉で文章を生成してくれます。ちょうどこの記事を執筆している時期が二月中旬で本校の高校3年生に受験指導をしていた時期ということもあって、チャットGPTがどの程度のものか試してみようと思い、次のように聞いてみました。
「あなたが琉球大学の医学部医学科を志望する理由を教えてください。」
それに対して返ってきた答えが以下のようなものです。
「琉球大学医学部医学科を志望する理由は、以下の3つが挙げられます。 1.地域に貢献したいという思い 私は、沖縄県出身であり、地元で医師として働くことが将来の夢です。琉球大学医学部は、沖縄県内で多くの医療施設と連携しているため、地域に密着した医療の知識や技術を学ぶことができます。また、卒業後にも沖縄県内での就職先が多いことも魅力的です。私は、琉球大学医学部で学んで、地域に貢献する医師として活躍したいと考えています。 2.総合的な医療教育ができる環境があること 琉球大学医学部では、医学科だけでなく、看護学科、医療技術学科などもあり、総合的な医療教育ができる環境が整っています。これにより、患者の健康を総合的に管理するための視点やスキルを身につけることができます。また、臨床実習も多くあり、現場での実践的な技術や知識を学ぶことができます。私は、総合的な医療教育を受けることで、より良い医療サービスを提供できる医師になりたいと思っています。 3.研究環境が整っていること 琉球大学医学部は、国内外で高い評価を得ている研究機関であり、多くの優秀な研究者が活躍しています。私は、医学研究にも興味があり、琉球大学医学部での研究に参加することで、医療の進歩や発展に貢献したいと考えています。また、研究に参加することで、医学の幅広い分野について学ぶことができ、より深い医学知識を身につけることができます。
以上の理由から、私は琉球大学医学部医学科を志望しています。私の目標は、医師として地域に貢献し、患者の健康に貢献することです。琉球大学医学部での学びを通じて、専門的な知識や技術を習得し、患者と向き合うことができる医師になりたいと思います。また、多くの人々と出会い、交流することで、地域に貢献するための人脈を広げることも目標のひとつです。私は、琉球大学医学部での学びを通じて、地域の医療に貢献することを目指し、全力で取り組んでいきたいと考えています。」 いかがでしょうか。チャットGPTがこの文章を返すのにかかった時間は30秒程度です。高校生がこの程度の志望理由書を作文するとしたらいったいどれほど時間がかかるでしょうか。もちろん、この志望理由書の内容は当たり障りのない、言い換えれば個性の見えない志望理由書だと思いますので、もし生徒がこれを提出してきたら私はだいぶ赤ペンを入れます。しかし発想を変えてみると、当たり障りのない、誰でも書ける(書けて当然の)ような内容であれば、わずか30秒で文章を生成してくれるのです。
「琉球大学医学部」「志望理由書」というキーワードを与えるだけでインターネット上のあらゆる情報にアクセスして最適解答を作ってくれる時代―。ついに来たんだなと率直に感じました。
学校はいまだに「正しい知識」を覚え、「正しい解き方」を身に付けることに価値を持たせています。作文であってもそうです。正しいとされる文章構成、良いとされる語句表現を身に付けることが優先されます。その上で一人一人の経験や個性にあわせながら個別化させようとした結果、具体例だけが少しずつ異なる同じ解答にたどり着いてしまっている矛盾が散見されます。
【人間の役割とは】
AIの時代の到来はずいぶんと前から予言されており、2045年頃には人類の全ての知を人工知能が超える技術的特異点(シンギュラリティ)がやってくると言われていました。しかし、最近ではその到来予想も2025年に前倒し修正されているようです。そしてこのような時代における人間の役割については様々な場所で議論されています。
AIが得意とするのはインターネットを含む膨大なデータにアクセスしてそこから決められた正解にたどり着くということです。裏を返せばデータが十分に揃っていない物事や正解が決まっていないことに対して解答を導くことはまだまだ苦手です。人間の人間らしさはそのような部分に発揮されると言われており、例えば新規創造の分野であったり、答えの決まっていない対人コミュニケーションの分野であったりという場所で力を発揮できる人材が求められています。
【ディベート部の決意表明】
ディベート部では社会課題解決のための政策についてそれこそ大量の情報にアクセスしながら、政策に対する賛否両方の立場を考えて議論を行います。賛成側、反対側がどのような理由でその立場をとるのか、現状の課題はどのような点にあるのか、その政策の問題点は何か、こういうことはAIに尋ねれば知識ベースの答えを教えてくれるでしょう。しかしながら、社会課題における正解というのは誰にとっての正解かという観点でまったく異なる正解が導かれます。そしてこういう点に配慮しながら意思決定するのは人間でなければいけません。多数派がいつも正解とは限らない、社会的弱者がいかなる場面でも弱いわけではない、目を向けるべき対象は誰なのか。こういったことを一つ一つ人間が判断していくからこそ、杓子定規ではない血の通った政策が生まれてくるのだと思います。こういう時代に求められているのは、決まったルール・規範だけを全員が盲目的に信じるのではなく、ルールや規範を内包した大きな物差しを個々人が獲得し、同時に他者のそれについても理解していく力ではないでしょうか。多様性のある社会、民主的な社会はそのような力によって形成されていくと思います。
ディベート部は今後も社会変化に対して敏感かつ多角的な視点で思索を深めていきたいと思います。さらに他者とのコミュニケーションを通じて自他理解を深めていくように取りくんでいきたいと思います。
今年も一年間よろしくお願い致します。