第6回 奇妙な形をした飛べない蛾(ガ)〜沖縄の海と山の推しメン紹介〜

庭の樹やベランダで育てている野菜をガの幼虫にやられて憤った経験のある人は少なくないのではないでしょうか。どこからともなく成虫が飛んできて卵を産みつけ、気づいたときにはかなり葉が食われた後だったりします。また成虫・幼虫ともに「なんか気持ち悪い」という理由で敬遠されがちな生き物でもあります。

コシロモンドクガの幼虫。4cmくらいになる

コシロモンドクガは南方系のガで、沖縄県内ではよく見られます。幼虫は歯ブラシの毛のような毛束をいくつも生やしていて非常に目立つ毛虫で、街路樹や園芸植物をふくむいろいろな植物につくため、見たことがある人も多いのではないでしょうか。派手な外見に反して毒はないとされていますが、肌の弱い人はかぶれるという話もあります。

コシロモンドクガの♂成虫(左)と♀成虫(右)

幼虫は他の多くのガと同じように、決まった回数脱皮をすると繭をつくり、その中で蛹になります。コシロモンドクガが変わっているのはここからです。♂成虫は茶色の地味なガなのですが、いっぽうの♀成虫は翅を持たず、飛ぶことができません。体はクリーム色で太短く、よく見ると6本の足が生えているものの、一見何かの蛹か幼虫のようです。

♀は羽化した後も繭の中にとどまり、においを出して♂を呼びます。このにおいは人間が感じられるにおいではないのですが、♂は櫛のようになった触覚で敏感に察知して飛んできます。うちでも街中にあるアパートの玄関に繭の入った洗濯ネットを吊るしておいたら、どこからともなく2匹の野生の♂が飛んできました。家の裏の林からでしょうが、それにしてもかなりの距離をにおいをたどって飛んできたことになります。♂と交尾した♀は繭から離れることなく、そのまま繭の表面に大量の卵を産み付けます。

♀が飛べないという性質を持っていると、どんな良いことがあるのでしょう。大事な卵を持った♀が鳥などにおそわれない、重くなっても問題ないので卵をたくさん作れる、などなど。でも♀が飛べないということは、飛んでいって生息地を広げることもできないことになります。それを補うため、コシロモンドクガは卵から生まれたばかりの幼虫が風に乗って広がるのではないかと考えられています。

シロモンドクガの例はほんの一例で、ガの仲間は非常に種類の多く、その中には面白い生態、変わった生き抜く術を持ったものがたくさんいます。

コシロモンドクガの繭の上に産み付けられた卵

Miyazaki Yu

生き物とそのウンチクが大好きなヒゲのガイド。 「キュリオス沖縄」は、沖縄県内の海や森などのフィールドでネイチャーツアーのサービスを提供しています。キュリオス沖縄のツアーは、自然の中を歩きながら生き物や環境を観察したり、その形や生態について考えたりする「インドアなアウトドア」スタイル。ガイドは基本的に専門過程で学習・研究経験のある「生き物好き」が務めます。このほか、県内のさまざまな自然・生物多様性に関する普及啓発などの事業をお手伝いさせていただいています。

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