第4回 浜辺を駆け抜ける白いスプリンター。〜沖縄の海と山の推しメン紹介〜

真夏の浜辺を歩いていると、小さい白っぽい影のようなものが足元をパーッと走りぬけていくことがあります。砂に溶けこむような色と、何よりその素早さから、はじめて見たときにその正体がカニだと見ぬける人は少ないでしょう。

海岸植生がよく残っている沖縄の砂浜には、ナンヨウスナガニやツノメガニなどのスナガニ類が生息しています。満潮で波がかかるか、かからないかくらいの場所に砂を掘った巣穴をつくり、干潮のときに出てきてエサをさがしまわります。甲の幅2cmくらいまでの小型の個体は昼間の炎天下でも出てきますが、大きな個体は夕方や夜、天気が悪いときによく出てくるようです。  走り回るスナガニ類を捕えようとすると一苦労です。直線で追いかけっこをすればさすがに人間のほうが速いのですが、小さな体にしては大変なスピードで、しかも急激な方向転換も得意で、しまいには逃げる方向でフェイントをかけてきたりもするので、なかなか捕まりません。  このスナガニ類の走りを高速度撮影するととても面白いことが分かるそうです。走る速度が速くなるにつれ使う脚を8本から7本、6本、5本に減らすというのです。さらに、スナガニがトップスピードで走っているときには「すべての脚が地面から離れる瞬間」があるそうです。

走る(走行)というのは、厳密にいうと「すべての脚(足)が地面から離れる瞬間がある」運動です。オリンピックの競技にもなっている競歩では、両足が地面から離れると即失格になってしまいますね。ではヒトや動物はなぜ走るのか?これは簡単で、片方の足がかならず地面につく「歩行」とちがって、「走行」では両足が地面をはなれ体が宙に浮いている間も慣性の力で前に進むので、歩幅よりもずっと長い距離を進むことができるのです。

ゴキブリなどはどんなに速く走っているように見えても、必ず1本以上の足が地面につく「歩行」をしています。ほとんどの節足動物(昆虫やクモ、カニなど)は厳密な意味で走ることはできません。スナガニ類は、運動様式からして節足動物界の「掟やぶりのスプリンター」なのです。
スナガニ類は速く走ることに特化していますが、カニの仲間はこのほかにも岩場を走ることに特化したもの、素早く砂に潜る形を手に入れたもの、泳ぐのが得意なものなどがいて、カニという生物の基本の形は残しつつ、それぞれの生き方に応じて体の形をさまざまに変えています。この夏はいろいろなフィールドでカニを探して形を比べてみてはいかがでしょうか。

Miyazaki Yu

生き物とそのウンチクが大好きなヒゲのガイド。 「キュリオス沖縄」は、沖縄県内の海や森などのフィールドでネイチャーツアーのサービスを提供しています。キュリオス沖縄のツアーは、自然の中を歩きながら生き物や環境を観察したり、その形や生態について考えたりする「インドアなアウトドア」スタイル。ガイドは基本的に専門過程で学習・研究経験のある「生き物好き」が務めます。このほか、県内のさまざまな自然・生物多様性に関する普及啓発などの事業をお手伝いさせていただいています。

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