一 はじめに

「威張らない」「人を責めない」そして「(問題解決のための)努力は怠らない」という3つの心は琉球の精神文化である。又吉(又吉正治『琉球文化の精神分析①――霊魂とユタの世界』月刊沖縄社、1987年)は、これを祖先崇拝「御願(ウグヮン)」の行動様式で説明した。
たとえば、又吉は夫の浮気を解決した妻の行動を紹介する。夫の行動(浮気)が発覚したとき、妻は夫の霊魂(マブイ)もしくは無意識(シニマブイ)が先祖代々から受け継がれてきた何者かによって動かされたためと考える。妻は夫の先祖の霊に対し夫の先祖の苦揺解き(先祖供養)の必要性を唱える。
具体的に、妻は夫の行動・言動をありのまま火(ヒ)の(ヌ)神(カン)と位牌(トートーメー)に報告する。そして、浮気発覚以降、毎日、夫を正しく導き出すようにと祖先に祈り続ける。これは琉球文化を祖先崇拝の行動で無意識に示した一例だ。

 本稿では、こうした琉球文化から、アニメ・ドラゴンボールに見る「元気玉」から、意識と無意識の世界観について触れてみることにしょう。

二 自分は自分であって自分ではない―固定観念や常識を打ち砕く「元気玉」

人気アニメ「ドラゴンボール(Z)」で悟空・悟飯&悟天の親子3人の声を演じた声優の野沢雅子氏は、悟空の口癖「まぁ、いいか」という心構えが一番好きであると言う。
脚本家の小山高生(2002)は自分で自分の能力を過小評価しない能天気な悟空のキャラクター化に成功している。海外でも悟空の人気は抜群で20世紀フォックス社が映画権を獲得し「まぁ、いいか」という口癖は「アイムゴクウ」と翻訳されCGを活用した映像まで創られた。
ここで、われわれの意識(イチマブイ)と無意識(シニマブイ)の世界の大きさを知ることは極めて重要である。意識を1とすれば、無意識の世界はその10万倍もあるという。小山は「まぁ、いいか(=アイムゴクウ)」という言葉の中で主人公の潜在意識(無意識の世界)に働きかけ、主人公が苦悩や苦境に出くわしても固定観念や常識を打ち砕くことをアニメで示した。
具体的に、主人公は「元気玉」という必殺技で困難を乗り越える。元気玉・その原資・そのタネを小山は「よかっタネ」と名前づける。小山氏の言葉を借りるまでもなく、この「よかっタネ」が日本各地で根付いたなら日本はさらなる元気と希望に満ちあふれた豊かな国になると思われる。
過日、ジュンク堂で『千人の一歩』出版記念会トークショーを行ったが、イベント運営にかかわる困難もすべて「よかっタネ」というタネとなって、参加者全員の心に何かしらのタネをまくことができたのではないか、と思っている。
そのうえ、このイベントを通して、地元ラジオ局の番組出演まで頂くことができた。まさしく、「よかっタネ」である。

三 琉球文化の精神分析:霊魂と氣質と個性

沖縄方言(島言葉)では、シュタイナーの心魂と霊性をあわせて霊魂(マブイ)という表現が一般的だ。マブイは、WHO「健康の定義」でいう「生きがい」の概念に近い(シュタイナー『人間の4つの気質』風濤社、2000年)。
河合(1992)(河合隼雄『子どもと学校』岩波新書)は、臨床心理学者として子どもと学校の新しい関係を創造する道を語った。
私たちは、難儀・困難に遭遇するとそこから逃げる傾向にある。そうではない。「相手の悪口」をいわず、解決のための努力を惜しまず、「よかっタネ」の精神で乗り越えてほしい。難儀・困難は、次へのステップへとつながる。人生の大きな登竜門である。
積極的に、難儀・困難を「楽しみながら」乗り越えていってほしいとおもう。

儀間 敏彦(ぎま としひこ)
東海大学 教授 湘南キャンパス教育開発研究センター所属 那覇市出身