照屋 杏樹 Teruya Anju 眞喜屋 志恩 Makiya Shion
昭和薬科大学附属高等学校1年。高校ディベート部。
第26回九州地区中学ディベート選手権優勝。 第26回全国中学ディベート選手権ベスト8入賞。
第27回九州地区高校ディベート選手権準優勝。
皆さん、こんにちは。「ディベート部の眼」第四弾です。 今回は高校一年生のディベート部員二人で誌上ディベートを行います。 テーマは昨年の中学最後の大会の論題でもあった 「部活動を廃止すべきである、是か非か。」です。 近年、部活動指導にかかる教員負担の増加や外部指導員の導入、 部活内でのいじめや体罰などのニュースをよく耳にします。 学校教育において部活動は必要なのか、それとも時代の変化とともに その必要性はなくなっているのか、賛成派、反対派、 それぞれの立場から考えてみたいと思います。
賛成派の主張
部活動を今すぐ廃止するべきだと考えます。
多くの教員は部活動の顧問を否応なしに強制され、長時間の労働を強いられています。
運動部の顧問を例に挙げると、実際に部活動の練習に参加している時間が一番長く、他にも、他校との練習試合や練習会への引率をはじめとする、大会への引率、大会中の運営・審判・役員といった引率業務、さらには生徒の保護者との対応などその仕事は少なくありません。そして、それらをすべて足し合わせると、一年間にとても多くの時間を部活動に割いていることになります。
また、近年若者の教員離れが深刻化しています。その背景にあるのが、部活動を代表とする時間外労働の存在です。若者たちは、教員になりたいと思うことがあっても、時間外労働という劣悪な労働環境下では働きたくないと思い教員を志望しません。また、教員の中には部活動による時間外労働がきつくて、仕事を辞めてしまう人もいます。
部活動をなくせば、顧問をしている教員は時間外労働から解放されるので、教員が時間的・肉体的・精神的余裕を持てる事に繋がります。また、労働環境が改善されるので、若者が教員離れすることもなくなるし、今いる教員が時間外労働がきつくてやめることもなくなります。そして、そのように教員が働きやすい環境を整備することによって、教員の本来の業務である授業にもより力を入れられるようになります。副次的な業務である部活動より、本業である授業により力を入れられるようになるのは、教員にとっても、さらに生徒にとっても重要な事です。
部活動をなくすことによって、教員の望まない長時間の時間外労働を減らして、教員の労働環境を改善し、若者が教員になりたくない理由を減らすことができます。だからこそ部活動を廃止するべきです。
反対派の主張
活動を廃止するべきではありません。
部活動は多くの生徒にとって成長したり学力以外で評価される居場所になっており、生徒は、部活を通して友達関係を深めたり、礼儀を学んだり、自分の性格や長所・短所わかったりと自分の成長を実感しています。
また、大学受験でのスポーツ推薦、課外活動推薦、文化・芸術活動推薦などの推薦入試は、高校生活の中で取り組んだ部活動が評価の対象になるため、部活動は学力以外での評価の場にもなっています。こうして生徒は部活動で日常的に活動することで部活動内での人間関係を築いたり、自分の長所を伸ばしたりして成長を実感することで自らのアイデンティティを形成しています。
もし仮に部活動が廃止されてしまったら、今まで部活動で成長を実感したり学力以外で評価されていた生徒は居場所を作れなくなってしまい、自己肯定感や自分らしさといったアイデンティティの確立ができなくなってしまいます。中学生や高校生の思春期の時期は、自分らしさとは何か?自分の生きがいは何か?など自分を確立して生きていくために考える時期となり、この時期にアイデンティティの確立を行って自分の人生の指針を見つけます。アイデンティティの確立に失敗して、アイデンティティを確立できないままでいると、自信を失って自己嫌悪感や無力感に陥り自分自身で物事を主体的に選択することができなくなってしまいます。
部活動がなくなってしまえば、生徒は部活動で人間関係を築いて成長したり、学力以外で評価されたりする居場所がなくなってしまいます。するとアイデンティティを形成できなくなって自分の人生の指針を見失ってしまいます。だからこそ部活動を廃止するべきではありません。
【反論】反対派⇒賛成派
賛成派は教員が顧問を強制されて長時間労働を押し付けられているせいで若者の教員離れが進んでいるから部活動を廃止しようという意見でした。
しかし、教員の長時間労働は部活動以外でもあって、例えば生徒の課題をチェックしたり授業の準備をしたりするのにも時間がかかるので教員は部活動以外の業務でもとても忙しいです。だから、部活動だけをなくしたとしても教員が感じる負担はそこまで減らないし、若者の教員離れも防ぐことはできないと思います。教員になる若者を増やしたいのなら部活動をなくすだけでは不十分で、もっと教員の業務を全体的に減らす努力をした方がいいと思います。
また、顧問を強制されていたとしてもどの程度部活動に関わるかという指導方針は教員が自分で自由に決めることができます。例えば、部活動の指導をほとんどしないで生徒が活動しているのを見ているだけの教員もいれば、自らの経験を活かして強豪校で何年も同じ部活動を指導している元日本代表の教員もいるかもしれません。
つまり、部活動の負担の重さというのは人によってバラつきがあって、結局は教員が自分自身で部活動にどれくらい関わるかを判断しているのです。それを部活動は教員が大変だから、顧問を押し付けられているから、という理由で廃止する必要はないと思います。 逆に部活動が廃止されてしまうと、今まで部活動を居場所としていた生徒たちが人間関係を築いたり自分の長所を伸ばしたりすることができなくなってしまいます。今、生徒たちは部活動があることで友達や先輩と交流したり、自分の長所や短所を知ったりしています。そしてこの経験が生徒のアイデンティティの形成につながっており、これは思春期である今の時期しかできないからこそ大事です。アイデンティティが形成できなくなって生徒が自己肯定感を失ったり無力感に陥ったりするのは生徒の人生にとっても深刻なことなので、部活動を廃止してはいけません。
【反論】賛成派⇒反対派
反対派の意見は、部活は多くの生徒にとっての居場所であって、アイデンティティを確立できる場所なんだということでしたが、部活動で輝けてアイデンティティを確立できる人はごく少数しかいません。
現状、部活動がある状況では、多くの部員がいる運動部、例えばサッカー部だったらその多くの生徒の中から試合に出られるのは11人だけだし、他の部活だって試合に出場しさらに活躍できるのはほんの一握りだけ。だから部活で輝ける人はとても少ないんです。 しかし、部活動をなくせば、学校行事にかけることが出来る時間が大幅に増えるので、学校行事が豊かになります。学校行事では、準備にも多くの生徒が参加するので部活動のように生徒の居場所にはなると思うし、イベント当日も多くの生徒が実際に活躍したり活動できるので、部活動より、より多くの生徒が輝ける場所になります。だから、部活動をなくしても問題はないし、むしろより多くの生徒にとっていい結果をもたらすものとなります。
ここからは賛成派の意見を振り返っていきます。
今教員は部活動の顧問を否応なしにやらされていて、そのせいで時間外の長時間労働を強制されています。若者はそのような深刻な状況を見て、教員になるのをためらってしまっている。教員たちはただでさえ人手不足なのに、そのような状況で若者が教員にならなくなってしまったら、部活の顧問をする人がいなくなってしまうのはもちろん、生徒たちに授業をする教員すらいなくなってしまいます。そうなると、部活動自体が出来なくなってしまうし、生徒たちは授業を受けられないので基本的な知識を得ることも難しくなってしまいます。基本的な知識を得ることが出来ないのは、将来社会に出たときに大きな障壁となってしまうので、このことは生徒たちにとっても好ましいことではありません。
だから、部活動を廃止して、教員の望まない長時間労働を減らし、労働環境を改善していくべきです。
部活動の歴史的背景
戦後の部活動は大きく三期に分けて展開してきました。一期目は、戦前の軍国教育から脱却し民主政治の下広がった「子どもの自主性」を尊重する教育が広がった時期です。部活動はすばらしいもので学校としてサポートするべきだとして展開してきました。二期目は1964年の東京オリンピックです。子どもの身体能力向上を目指しつつ、すべての生徒に平等にスポーツの機会を与えようと部活動加入率が上昇していきました。三期目は80年代に学校現場の非行が全国的に問題になった時期です。部活動が非行予防や生徒指導に有効だとして拡大していきました。
このように拡大してきた部活動が現在さまざまな問題を抱えているのではないかと議論されています。
私たちも含め多くの中高生が日々部活動に励んでいると思いますし、その中で授業とは異なる様々な経験を積んでいると思います。今後の部活動の行方が気になります。 参照 朝日新聞EduA 2021.03.01中村正史