内閣府は、日本を含めた7か国の満13歳~29歳の若者を対象とした意識調査を行った。残念なことに、日本の若者は、諸外国と比べて、「自己肯定感(self-esteem)」が低いばかりか(図1)、意欲もなく、毎日を憂鬱と感じ、将来に対して明るい希望をもっていない、ことがわかった。

図1 自己肯定感の低さ「自分自身に満足しているか」
総務省 今を生きる若者の意識調査(国際比較)、2023年

一 はじめに

明治時代、内村鑑三(1861-1930)先生は『代表的日本人』において西郷隆盛など5人の歴史上の人物の生き方を通して、日本人の「自己肯定感」の深さを示した。「人がどう生きたか」は、人から人へと伝えられるものであり、それは、魂のリレーとなる。た、内村は、「われわれが、後世へ残せる最大遺物とは何か? お金か? 事業か? それとも思想か?・・・それは、勇ましくも、美しい高尚な生涯にある」と示される(内村鑑三『後世への最大遺物』1903年)。

私たちが何を受け継いで生きていくのか、と、自問自答していくと、あらためて、私たちは、「自己肯定感」の深さ、「遺構」の豊かさに気づくことができる。

二 板井優追悼集『千人の1歩』から 読み解くもの

板井優先生は、首里高校の先輩で、水俣病国家賠償訴訟、ハンセン病国家賠償訴訟などにかかわり、私にとっては、人生のヒーローである。優先生からは、「いばらない」「人を責めない」そして「問題解決のための努力は怠らない」という3つの心を学んだ。私は、本書で、「黒潮たぎるウルトラマン」として優先生の追悼集に投稿させていただいた。精神科医で民族医療を専門とする又吉正治『琉球文化の精神分析』(1987)に倣えば、これら3つの心は、琉球の精神文化である。

その後、2022年に、実践経営学会全国大会では、学会報告の機会を得た。私は、「弁護士板井優先生の精神文化」と題して、優先生の遺したもの、と、2019年の首里城焼失はオーバーラップする、と報告し、論文を投稿した。

首里城が焼失したからといって、その文化遺産の価値は失われるわけではない。首里城は、正殿下の「遺構」、すなわち、石積の部分に世界遺産の価値があるからである。民俗学・吉野裕子『扇――性と古代信仰』1970に倣えば、平城京などのお城は、北(君主)を背中に、南(庶民)を向いている。南北軸の世界観である。それに対し、 首里城は、東(ニライカナイ、理想郷)を背中に、西(現実)を向いている。首里城は、空間的、時間的に拡張された世界観(宇宙観)から成り立っている。

三 自己肯定感が低い日本の子ども達 ― いかに克服するか

教育現場において、子ども達に身につけてほしいのは、適切な「自己肯定感」である。自分の特性(得意・苦手、好き・きらい)を認識し、目標に対して自分の位置がどこにあるかを認識し、その乖離を埋めるための方策を考える。 成功した時も、失敗した時も、その原因を「能力」だけに帰属させて、南北軸、うさぎさんの目線だけで「自己肯定感」を保つのではない。

東西軸の世界観でもって、あたたかく、優先生のように、成長のプロセスに目をむける、亀さんの目線、も養いたいものである。

儀間 敏彦(ぎま としひこ)
東海大学 教授 湘南キャンパス教育開発研究センター所属 那覇市出身