皆さまこんにちは。今年も昭和薬科大学附属高等学校・中学校ディベート部が『ジュクタン』の紙面に記事を書かせていただきます。今年は小学生にもわかりやすい記事を目指して書いていきたいと思います!よろしくお願い致します。
さて、今年最初の記事はディベートとは何か、について書いてみます。ディベートの基本的知識や楽しさを皆さんに少しでも知っていただけたら嬉しいです。ディベートミニ講座という感覚で、一緒に考えながらご一読ください。

中山 柚穂   Nakayama Yuzuho
昭和薬科大学附属高等学校1年。高校ディベート部。

第26回九州地区中学ディベート選手権優勝。
第26回全国中学ディベート選手権ベスト8。
第28回九州地区高校ディベート選手権準優勝。
第28回全国高校ディベート選手権ベスト8。

・ディベートとは

みなさんの中で実際にディベートをしたことがある方や、ディベートについて詳しく知っているという方はどれぐらいいらっしゃるでしょうか。もしかすると、テレビ番組やYouTubeなどで芸能人同士によるディベート対決や討論を見たことがある方もいるかもしれません。そしてそういった「ディベート対決」が盛んになる中で、「ディベート=論破すること」と認識している人も多いのではないかと思います。しかし、これは間違った認識です。そもそもディベートとは、あるテーマ(「論題」といいます)について肯定・否定という二つの立場に分かれ、第三者を説得する形で議論を行うことです。自分たちの都合の良いように議論するのではなく、聴衆である第三者を納得させることがディベートをする上で非常に重要なことです。
ディベートの議論形態は一様に定まっているわけではありませんが、私たちが取り組んでいる競技ディベートは大きく分けて①立論、②質疑、③反駁の三つのパートに分かれて議論を構成していきます。パートごとの役割についてそれぞれ見ていきましょう。

コラム①「議論の段取り」

ディベート甲子園中学の部では次のような順番で議論が進められます。パートが切り替わるごとに両チームに1〜2分の準備時間が与えられ、その間チームでは議論の確認や戦略を練ったりと、いわゆる「作戦会議」をします。

ディベートの3つのパート

①立論(りつろん)
議論では論題について初めに根拠を示しながら自分たちの意見を主張します。これを立論といいます。立論を組み立てる上で、肯定側は、論題を導入したら起こる良いこと=「メリット」を述べ、否定側は論題を導入してしまったら起こる悪いこと=「デメリット」を述べます。双方の立論はメリット・デメリットを軸として、論題を導入する前(=現状)がどのような状況なのか、論題を導入したらなぜメリットまたはデメリットが発生するのかなどについて主張します。

②質疑(しつぎ)
質疑パートでは相手の立論の不明点や立証が甘い部分に質疑してきます。これから展開する議論がスムーズにいくように相手の立論で理解できなかった点や、後の議論で争点になりそうな点について質疑ができるかがポイントです。相手の主張に飲み込まれることなく、相手の一言一句を「本当にそうか?」と疑う姿勢が求められます。筆者は質疑の担当になることが多いのですが、質疑は相手と直接対話するにも関わらずスピーチ時間が短いので、いかに短くダイレクトに質疑できるかを意識して練習するようにしています。

③反駁(はんばく)
あまり聞き馴染みのない言葉だとは思いますが、反駁と反論は少し似た意味を持っています。単純に相手の主張を言い返すという意味の「反論」に対し、「反駁」とは相手の主張を論じ返すという意味を持っている部分が違います。反駁の役割は、立論と質疑の内容を踏まえて浮き彫りになった議論における論点をきちんとまとめて論じることです。競技ディベートでは反駁が第一反駁と第二反駁に分かれ、第一反駁は相手が出した論点に対して文献やインターネット情報を元に論じ返す、第二反駁は第一反駁までに出揃った議論の内容をまとめるといった二つの役割にまたがっています。

〇勝敗の決め方
全てのスピーチが終わったあとに、第三者のジャッジがメリット・デメリットのどちらが大きく残ったのかを判断し、勝敗を決めます。ジャッジが注目しているポイントとしては①自分たちの主張が成立している理由を適切に示しているか、②議論の争点となった部分に決着がつけられたか、③お互いの議論を適切に比較しているか、などです。メリットがデメリットを総合的に上回ったと判断したら肯定側の勝利、逆にデメリットがメリットを上回ったら否定側の勝利となります。また、メリットとデメリットどちらも同じぐらいであればわざわざ論題を導入する必要がないということになり、否定側の勝利となります。

コラム②「論題研究」

ディベート甲子園の過去論題

(引用:全国教室ディベート連盟)
毎年2月下旬頃に、ディベート甲子園の論題が発表されます。地区大会が7月、全国大会が8月にあり、論題発表から約半年間たくさんの資料を調べたり、部内で議論を作ったり、他校の方々と練習試合等をしています。準備期間は約半年間という長期間に及ぶため、その分時間をかけて濃密な議論が出来るように努めています。

ディベート甲子園の論題は一般に、特定の制度・政策について議論する、政策論題という種類の論題が使われています。論題によっては法学や医学といった、普段私たちが扱わないような専門性の高い知識の理解が求められます。

「ディベート実践編」

ここで、実際に皆さんにとっても身近な論題を通してディベートを体験してみましょう。

○論題「小学校における給食を廃止し、弁当にすべきである」

肯定側 メリット:弁当を通じた人間的成長
否定側 デメリット:保護者の負担増加/栄養バランスの偏り

肯定側立論
給食の代わりがお弁当になることで、保護者の愛情が詰まったお弁当を通して家族とのコミュニケーションがとれるというメリットが考えられます。何気ないお弁当の感想を伝えることができたり、お弁当作りや食器洗いを分担できたりして、ご飯を作ることの大変さやありがたみを親子で共有できるわけです。そして、生徒がお弁当に慣れ親しみ、生徒自らがお弁当を作ることもやりやすくなります。自分が口にするお弁当を作ることで、料理の達成感を得られたり楽しみに繋がったります。お弁当を通して家庭内で会話が増えて家族仲が良くなったり、生徒自身の新たな成長が得られるため、論題を導入するべき、という主張となります。

否定側立論
給食がなくなってしまうことで保護者の負担が増加するというデメリットが考えられます。お弁当を作るには、保護者は弁当のための食材準備や、朝早く起きて弁当を作るといった負担が生じます。また、給食の場合、栄養士さんが成長期の子供に必要な栄養バランスを考えた上で献立が作られているので、生徒が1日に1食は健康的な食事ができています。しかしお弁当になってしまうと、生徒が好きな食べ物を持参出来るようになるため、栄養バランスが偏る可能性があります。まとめると、お弁当を作る保護者の負担が増え、生徒の大事な成長期に栄養バランスが偏ってしまうため給食を廃止すべきではない、という主張になります。

実際の試合では、これらの立論に対して質疑を行うことで議論の方向性が決まってきます。議論の下地が整ったところで、次に反駁を考えていきましょう。

肯定側立論に対する否定側からの反駁としては、
①お弁当を作ってくれた保護者への感謝の気持ちはあるかもしれないが、保護者にも負担が生まれることもあり、必ずしも会話が増えるわけではない。
②お弁当を作らなくとも、生徒は普段から食事を作ったり、食器を洗ったりすることも出来る。といったことが考えられそうです。
否定側立論に対する肯定側からの反駁としては、
①普段の食事で余ったものを活用してお弁当を作れるので負担が大きく増えることは無い。
②給食を残す生徒もいるので全員にとって栄養バランスが保たれているわけではない。したがって給食が廃止されても現状とはそこまで大きな差は生まれない、といった議論が考えられます。

コラム③「ディベーターのひみつ道具」

ここまでお読みになった方はきっと、試合中の議論をどうやってまとめているんだろうと思ったかと思います。私たちは自分のチームや相手チームが発言したことをその場でメモしています。「フローシート」という表裏両方に双方の議論が書けるような紙を使用しています。ディベーターは少し早口で喋るので筆記が大変ですが、聞き逃しがあると後々の試合に影響するので必死に書き留めています。
そしてあと一つ、ディベーターの大事な道具をご紹介したいと思います。それはストップウォッチです。コラム①でも述べたように、競技ディベートは時間が限られているので、一分一秒でも無駄のないスピーチを心がけるためにストップウォッチで時間を測っています。万が一、ストップウォッチを押し忘れて話すと、残り時間がわからず出来の悪いスピーチになってしまうので、日頃から試合をする際は肌身離さず持っています。

ディベートがもたらす効用

筆者が約4年間のディベート部での経験を通して大きく成長を実感した点は、大勢の前でスピーチをする度胸が身についたことです。特に、質疑や反駁では、予め用意した原稿を読むのではなく、議論の展開によって臨機応変に内容を考える即興力が求められます。実戦を重ね、たくさんの失敗を経験しながらも、第三者の前で堂々と自分の言葉を信じてスピーチできるようになったと感じています。そして、ディベートではコラム②でも触れたように多種多様な社会的論題を扱うので、様々なことについて一定の知識が身につきます。
答えの決まっていない社会的な問題について、肯定側からも否定側からも多面的に考えるため、教養を養ったり、社会問題や自分の進路について深く考えたりするきっかけに繋がります。この記事を通して皆さんが少しでもディベートに興味をもってもらえたら嬉しいです。